12、ヒポクラテス(5)
文字数 1,276文字
ヒポクラテス学派は、厳格な職業意識、規律、厳しい訓練で有名であった。『医師について』という文書では、医者というのは、身なりを整え、正直で、冷静で、理解に富み、真面目であることを推奨している。ヒポクラテス派の医者は訓練中でもあらゆる事柄に十分注意を払う。手術室の「照明、人員、器具、患者の位置、包帯の巻き方」などにも事細かな仕様があった。指の爪をきれいに切りそろえることも求められたのである。
ヒポクラテス学派は患者の観察と記録の作成を臨床の原則として重視した。これは医師各々が臨床にあたって発見した症状と治療法を客観的な方法で明確に記録することで、他の医師がその記録を参照しその治療方法を採用することなどができるようになるからである。
ヒポクラテスとヒポクラテス派の医師たちは、多くの病気とその症状について医学史初となる記述を残した。中でも慢性化膿性肺疾患、肺がんやチノアーゼ性心疾患(先天性心疾患のうちチノアーゼ性のもの)を診断するうえで重要な兆候となる、指がばち状となる症状を最初に記述したとされ、このことから、ばち指のことを「ヒポクラテス指(またはヒポクラテス爪)」ともいう。
もちろん肺や心臓の病気について詳しいことはわからなかったであろう。それでも患者の詳しい観察からそのような指になった者が重大な病気になっているということを知った。詳しい観察と記録によって病気の兆候を知ることができたのだ。