31、四体液説(4)
文字数 1,156文字
『ヒポクラテス全集』に納められた論文「人間の自然性について」では、最も健康な状態は、四体液の力や量がバランスを保った状態で、特にお互いに混和(クラーシス)した状態であると説明される。病気とは、体液の一つが多すぎたり少なすぎたりする場合、また一つだけが切り離されて他と混和しない場合に起こる。四体液はそれぞれ2つの性質を持っているので、互いに反発しつつも引かれ合う。体液のバランスが崩れる原因は、体質、生活環境、生活様式、食事などである。
治療の方針は、過剰な力を除去し、不足するところに加えて(逆療法)、バランスを安定させることだった。四体液説は、「熱・冷・湿・乾」からなるアリストテレスの四大元素説(四性質説)と関連付けられたため、例えば黒胆汁の過剰による病気の場合、その性質は「冷」なので、過剰な黒胆汁を排出し、熱性の食べ物や薬草を摂取して、体液のバランスを戻すように試みる。
ローマのガレノスは、ヒポクラテスの「自然」「体液病理説」「四体液説」「逆療法」などの考えを受け継いで、古代ギリシャの医学をまとめ上げた。またガレノスは人間の霊魂はプネウマ(生気、精気、霊気、空気、気息とも)を介して肉体を操っていると考え、四体液とプネウマの適度な混合が大切であるとした。プネウマは中医学の気、アーユルヴェーダのヴァーダ(風、体風素)に比されるもので、生命エネルギーのようなものだという。