第43話

文字数 803文字

 薄暗いレストランの片隅で、武と光姫だけでなにやら話していた。
 外は大荒れの雨風が吹き乱れ。龍の咆哮がそれぞれ近づいているかのようだった。いつの間にか、風に乗って不穏な空気がこのビルに集まっていた。
「その節は従姉妹の里奈が大変お世話になりました。これから一緒に旅に出ることを感謝しております」
 武はいつもの几帳面で軽い調子ではなく。ピンッと姿勢を正して頭を深く下げたのだが、さすがに見惚れているかのようだった。なにやら光姫に対して静かに武者震いもしているのだ。思えば鬼姫との最初の手合わせをした時にも武者震いをしていたようである。
 武道の達人の武には相手の強さがよくわかるのだろう。
「はい。いつでも命を掛けて共に戦いましょう。では、よろしくお願い致します」
 武は幾分ぎこちなく言うとまた深々と頭を下げた。
 武は内心、これからの戦いに光姫が参加してくれてとても光栄だと思っているのだろう。
 だが、恐らく光姫も内心同じく思っているのだろう。
 二人ともお互いに会えて、そして、一緒に旅に行けることが光栄なのだ。
「あ、ええと。光姫さん? あの、早速で悪いんですが。後で、一度お手合わせをお願いします。お互い実力をすぐに知りたいはずですし。このビルの外へ出たらどこか広い場所を探しましょう」
 きっと、武は光姫にどうしようもない恐れを抱いているのだろう。
 その気持ちは私にもわかるのだ。
 武だけではないと思うが、光姫に恐怖するのは、その特異な能力に由来するであろう。
 これは目が離せないのではないだろうか。
 はて? 背後から切迫した空気を感じて周囲を見てみると、高取、湯築と鬼姫や蓮姫までもが武と同じ気持ちであったようだ。

 この美しくも恐ろしい化生に皆、ざわめいていた。

「それには及びません。もうすぐわかりますから」
 光姫はあっさりと、そう言い残して高取に会いに行った。

 
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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