第27話

文字数 789文字

 今は夜の七時。
 大船での初めての夕餉の席だ。
あの三人組は丸テーブルの一端で何故かひそひそと小声で話し合っていた。
 ここからでは、聞き取りにくいので、放っておく。

 せせこましい食堂であった。
 丸い窓に丸テーブルに丸い椅子とここも殺風景だ。
 しかし、何故かとても温かい感じがする。

 五十人以上での席で、男は武だけだった。
後は美女ばかりなのだが。まあ、三人組は実は可愛い姿形なのだが、あまり、気にしなくてもよかろう。

 武はいつも精神を極度に集中しているかのようだ。箸が一定のリズムを醸し出しているようにも思えてくる。武は今でも、何かの修練をしているのだろう。
 当然、寝床以外はそうなのだろうが。
 そのため、より一層女子たちの視線が集まるようになっていた。
 献立はカブと大根の酢漬けに、白米。味噌汁。後は、色とりどりの刺身であった。醤油もあり、陸と大差ないのではなかろうか。

 後は、風呂の時間なのだが、まったく武は気にしていないようだが。私にはかなり困ったことが起きる予感がするのは、気のせいだろうか?

 皆、何度も言うが、女子である。
 そして、一人だけ男なのだし、思春期でもあるので嫌な予感が的中するであろう……。

 ここは、激戦区となった。風呂場である……。
 武の入っている湯船まで、大勢の声が聞こえてきている。
 そう、それは背中を流したいだの。これは三人組である。
 武芸の稽古の疲れの取り方を教えるだの。これは鬼姫である。
 切り傷の薬湯を持って来た。地姫。
 マッサージでもと。蓮姫。
 周囲を睨んでいる。高取。
 湯築は、面倒だといいながら風呂場に入ろうとしていた。

「ちょっと、待ってー! 恥ずかしいから来るなーー! はっくしょん!!」
 武は、必要最小限の入浴を余儀なくされ、およそ五分で風呂を上がった。

 予感的中といったところだ。皆、女子たちは修練とは別に対抗意識を燃やしているのだ。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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