第105話

文字数 1,045文字

  水淼の大龍には、実は大きな意志というものはないって東龍が言っていたし。龍と同じく誰かが使役しているって? それも水淼の龍族という総称で呼ばれるほどたくさんの龍がいる。
 それがわかれば居ても立っても居られない。
 ここ存在しないはずの神社に来る前に、一目会いたかったなあ。幼馴染のあいつに……。
 だけど、時間がないんだ。
 そこで、俺は一枚の手紙を一人の巫女さんに渡した。
 何を隠そう麻生 弥生宛さ……。
 俺は米の入った茶碗越しに大広間の松や竹の模した襖の方を何気なしに向いた。
「武!!」
 俺は開いた襖に口を開けたままだ。
 びっくり仰天したんだ。
 あいつが俺を見ているんだ。
 
 麻生 弥生だ。

 どうやら、巫女さんに渡した手紙がもう鳳翼学園へと向かい。手紙は、きっと高取か湯築か麻生に渡ったんだろう。あるいは卓登かもしれない。渦潮を使ったんだろうな……。準備が早すぎるけど……すでに、高取のやつは知っていたのかも知れない。
 大広間で、麻生は俺にヒシッと抱き着いてきた。
 もう離さないといった感じだった。麻生は必死だ。
 昼食の膳が幾つかひっくり返ったけど、俺にとってもそれどころじゃないんだ。麻生は静かに泣いていた。俺の頬にも、熱いものが……? 麻生のかどうかわからないけど、幾つも流れていたんだ。

 やっと、会えた……んだ……。
 無言のままいつまでもいたいんだ。
 そう、いつまでも……このまま……。
 
 なんか……? 恐ろしい威圧感を後ろから受けるけど、きっと鬼姫さんだろう。焼きもちをやいているのかな?

 それから時間の感覚がなくなってきたけど、再会の後に、俺は神社の外へすぐに向かった。麻生には悪いが朱色の間で待っててくれって言ってある。そういえば麻生はニッコリ笑って手を振っていたな。
 早くに水淼の大龍に打ち勝つ力が欲しいのも事実だし。
 理由はわからないけど、俺には一分一秒でも早く水の惑星へと戻らないといけない焦燥感があった。

 丁度、昼の15時頃だ。

 鬼姫さんと蓮姫さんは武装して、大海の前にいる。俺たちは存在しないはずの神社から小舟を漕いで、少し離れた小島に来たんだ。
「では、武様。しっかり見ていてくださいね」
 そういうと、鬼姫さんは数打ちの刀で、一度大海に背を向け、振り向きざまに大地を踏んで刀を振り下ろした。

「えい!」

 鬼姫さんの掛け声とともに、天と地を一周したかのような刀の軌道から発せられる気は、大気を震わせ大海のど真ん中に、ガコンとまるで空気の拳で殴ったかのような大穴を開けた。 
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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