第21話

文字数 1,443文字

 それから、二日後のことだ。
 厳しい修練の合間のここは大広間の夕餉の席だ。
 おおよそ1000人の大人の男たちは、なにやら皆静か過ぎていた。殺気などを滲みだす者もいる。なぜかしら武たちの厳しい稽古を知っているのかも知れない。
 皆、対抗意識で大広間はひしめき合っていた。  
 そのため、各所の修練の間から昼夜問わず大勢の男女が行き交うようになっていたようだ。
「みんなどうしたんだろ? 燃えていますね」
 三人組の美鈴が片岡に向かって、疑問を呈している。
「……うーん。なんでか、武様も必死なのです。きっと、あまりにも武様が強くなり過ぎて、みんな敵わなくなってしまったのでしょう」
 片岡は箸を夕餉に運びながら、もぐもぐと食べながら妄想を話している。
 その隣の武は、意識を取り分け集中しながら箸を運んでいたようだ。恐らく、今も何かの修練をしているかのようだ。
 高取は今日も夕餉の席に着いていない。
 私も心配になるほど、やつれていたのだ。
 反対に湯築はおかわりを繰り返し、武はいつもより小食を志しているかのように、夕餉の食材を少しずつ隣の片岡たち三人組に勧めている。
 三人組は殊更に大喜びだった。

「稽古の方は、どう?」
 湯築は隣の武に聞いたようだ。
「まあまあで、もっと上」
「そう……」
それ以上、武と湯築の会話はぷっつりと消えた。
 二人とも更に更にと上を目指しているのだろう。当然、高取もである。その時、廊下を隔てた杉や松や竹を模した襖が開いた。  
高取である。
「お腹空いた」
 武と湯築の顔に緊張が走った。それだけやつれていたのであるが、高取は至って平然としているのだ。
 幾人かの男たちが高取を見て、皆驚いたようだ。鬼姫と蓮姫も驚いた。
ただし、地姫は別である。今も静かに夕餉に箸を運んでいた。
 武と湯築は、高取の食事の間。何も言わずに料理に箸を運んでいる。だが、とても険しい顔をしているが、けれでも心配気な顔のようにも思えた。

 一方、ここは鳳翼学園。
 あの日曜日から、自衛隊が救援物資など何かの機材などを運ぶために幾度となく行き来していた。
 廊下の窓の外を麻生が一人寂しく見つめていた。

 きっと、武の身を案じているのだろう。
 だが、武は今のところ無事なのだ。

「いやー、みんな無事でなにより……というわけじゃないな」
 麻生は声のした方をハッとして振り返ったようだ。
 偉そうな一人の白衣姿の男が自衛隊の隊長に苦い顔を向けて話したのだ。その白衣の男はあの宮本博士である。他の研究員もなにやら機材を運んでいる自衛隊たちに指示をだしていた。
「怪我人は、訓練所の病室へ全員無事に運んだんだね? 後は雨と地球外生命体の龍だけか……」
「宮本博士。いつか、この雨が止むことはありますか?」
 自衛隊の隊長は若く田嶋という名の男で立派な体躯である。
「わからん……恐らくは人為的には絶対無理だろう……」
「……そうですか」
「あの、宮本博士。機材はこれで全部です」
 かなり細いと形容できる研究員が宮本博士に言ったのだ。
 三つの教室は、今や立派な研究施設と変わりない。
 麻生が何やらさっきから必死に聞き耳を立てていた。
 そんなことをしても、あまり意味がないのだが、辛いが麻生の気持ちを察すると、きっと今まで武の安否を身の裂けんばかりに心配していたのであろう。
「しかし、数人の学生たちは今のところ……どこへ行ったのやら? 海底で引っかかるかしないと、見つかるはずなのだし……」
 宮本博士はそう、ぼそりと呟いた。    
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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