第122話 青き星より繋げる手

文字数 707文字

 そうだ! この龍を討とう!

 北龍と鬼姫さんの方は、まだ大丈夫だと思うから。俺は西龍と地姫さんの海より遥か西側へ行くことにした。
 逃げ惑う人々の合間を走り抜けていると、途中で、人にぶつかってしまった。
「痛ったいわねー! どこへ行こうとしているのよ! この一大事に! みんな避難しているのに! そっちは逆方向よ!」
 見ると、金色のチャイナドレスの美しい女性だった。
 長身で切れ長の目をした派手な衣装の女性だ。
「すいません! 俺、急いでいます!」
「え、そっちの方角は! あ、あなた武様でしょ!」
 女性の声を聞き流して、俺は西へと向かった。
 
 竜宮城の城下町の人々で、武装していない人は避難している人たちだ。
 徐々に人がいなくなり、付近のがらんとした出店の暖簾は寂しそうに揺らいでいた。

「ねえ、避雷針って知ってる?」
 さっきの女性はまだ俺についてくる。
 これだけ急いで走っている俺に追いつくなんて……。
「え! いや、ごめん! 俺、急いでるんだ!」
「あなた武様でしょ。これを持って行って!」

 女性から一本の何の変哲もない小枝を持たされた。

 北西の砂浜が見えてきた。
 竜宮城の城下町の空を腹で覆った数多の龍の頭が見える。
 それぞれ海水を飲んでいた。 
「じゃ、またね! 武様!」
 女性は避難のため竜宮城方面へと向かったようだ。

 あんな派手な人には似合わないこの小枝は? 一体なんだろう?
 俺はどうしても気になって、走りながら小枝をチラチラと見てしまう。その時また、人にぶつかってしまった。今度は短めの赤い髪のチャイナドレスの女性だ。

 城下町はもう過ぎて、砂浜の砂粒が所々に見え隠れする道を走っていた。逃げ惑う人々はもういない。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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