第101話 水淼の大龍

文字数 1,038文字

 微睡みから……。
 目を開けると……。
 柔らかい光が……。
 
 そして、優しい声が、伝わってくる……。
 
 きっと、あいつだ。
 今頃は、俺の家で階下へ行って父さんと母さんに挨拶している。
 いつもの食卓には、麻生の料理が半分載って、お替りをあまりしない俺に、少しは食べなさいと言って……。
「武……」
 ほら、きっと、階下からあいつ……麻生が呼んでいるんだ。
「武さん……」
 ほら、きっと……?
「起きろ!」
「わ!」
 俺は飛び起きた。
 俺は温水と冷水の入り混じった川の流れの中にいた。いや、正確には川に浮きでた岩の上にいた。岩の上は所々、苔が生え微量な熱を帯びている。隣には東龍が俺の顔を覗いていた。
 天井を見上げると、くっきりと丸い穴の開いたガラス窓があり、遥か空が見える。そこにバルコニーのようなところがあって、美しく、しかも可愛らしい女性が立っていた。
 彼女は、こちらを見下ろしては、こちらへ焦りながら手招きをしていた。
「姫?!」
 東龍の声に、俺はあの女性が乙姫だったと思い出した。
 確か竜宮城の奥の間で、東龍と戦って、それから……?
 それから……。
 何だったっけ……?
「武よ! 起きろ! 先に行っているぜ!」
 隣の東龍が叫んでいる。
 俺には何が何だかわからなかった。
 東龍は先に川の中へと飛び込み。その勢いで水を掻き分けながら流れに逆って、泳いで行った。珊瑚の壁面にぶら下がる縄梯子へと泳いでいるようだ。
 俺は上半身を起き上がらせた。身体はどこも痛くなく。いつもの状態だ。 
 東龍は縄梯子を登りながら、こちらに振り向くと、
「武! これから奴と戦うんだ!」
「え?! なんだって?! 誰とだ?! 地球での決着はまだついていないわけか?! ……ここはどこだ! 湯築! 高取! 鬼姫さん! 光姫さん!」
 俺は辺りを見回しても、蓮姫さんも地姫さんも誰もいない。
「東龍よ! 早く! 水淼の大龍が(すいびょうのおおりゅう)が! 来る!」
 乙姫の傍に、北龍が駆け寄って来た。
 均整のとれた北龍の顔がここから見えたが、その身体はボロボロで、満身創痍だった。
「武! 俺と一緒に来てくれ! 何故、この星の水が無くなったのか! その理由! 何故、地球へと侵略しないといけなかったのか! その理由! それを自分の目で確かめてくれ!」
 東龍はあっという間に縄梯子を登り切り、乙姫たちと消えた。いや、俺の視界から消えたんだ。
 俺は左手に、手紙が握られていることに気が付いた。
 開けてみると、高取からの手紙だった。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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