第4話
文字数 1,191文字
どんなに明るいニュースでも、今では塞ぎ気味の鬱な気持ちを明るくするのは無理なのだろう。
信号が青になったので、横断歩道を麻生と武はお互いに手をつないで渡った。二人ともおしゃれな長靴を履いていた。麻生はお気に入りのニーハイが目立つようなピンクの長靴。武は灰色が基調の地味な学生服なので、ずっぽりとしているが理知的な黒の長靴である。
霞ヶ浦に近い鳳翼学園では、もう休んでいる生徒も多々あるのだ。
半年も続き。いつ止むこともない雨は、皆の不安を払拭することはなく。何かの天変地異とまで思わせたのだろう。
だって、そうではないだろうか?
苦労して、もしかすると、床下浸水もしている家屋から、命からがら学校へ通うことに、何かの意味を見出すのは、そうたやすいことではないはずである。
学級委員長でもある武は、出席日数はいつも万全だった。
麻生は風邪を引いた日以外は全て学校へと通っていた。
二人の目に高台にある鳳翼学園の校舎が見えて来たようだ。
武の後方から自転車が複数。水飛沫をばら撒きながら追い越していく。二人はいつものことなので気にせずに校門へと向かって行った。
今では、学校へ通う生徒はごくまばらだった。
いい加減に学校側も休校にしたらよいのだが、通いたがる生徒がいるので、仕方なく。小降りの雨なので高台という環境もあってなのか、校舎を解放しているようだ。
午後には決まって水浸しの校舎全体には、明るい笑い声がするので、不思議なことである……。
日本全土の空が泣いていた。
いや、世界中が泣いていた。
昼休みのことである。
麻生が武と共に理科室でお弁当を取り換えっこしている。
「相変わらずね。武のお母さんって、バランスが良いものばかり。うちって、何故か母さんが西洋かぶれだから……。もう、日舞には厳しいのにね」
武は麻生のお弁当の中華のシューマイを食しながら、
「お前の母さんって、色々な海外の食材が楽しいからな。時々、羨ましいよ。俺の母さんって、家であまりにも肉類ばかりだしていた時があったから、その反省」
そんな他愛もない言葉を交わす武と麻生の部屋の片隅に、武の唯一の親友の卓登(たくと) 博文が独りパンと牛乳を食しているようだ。
貧相な奴で、いい奴なのだが口数が少ない。
背も低く。常に下を向いていた。
暗い性格だが、けれども、合気道では武と互角に渡り合えていたことを知っている。
武とは中学の頃からの親友でもあるのだ。
「食い終わったから、教室に戻るよ」
そう一言残して、卓登は立ち上がったが、俯き加減のその目は、いつも、武のスキを見出そうとしている武道家の目をしていた。
道という字が好きな卓登は、小学生の頃に酷いいじめを受けてから、合気道の達人へと昇りつめたのだ。
この理科室には、もう二人。麻生の友達がいた。
信号が青になったので、横断歩道を麻生と武はお互いに手をつないで渡った。二人ともおしゃれな長靴を履いていた。麻生はお気に入りのニーハイが目立つようなピンクの長靴。武は灰色が基調の地味な学生服なので、ずっぽりとしているが理知的な黒の長靴である。
霞ヶ浦に近い鳳翼学園では、もう休んでいる生徒も多々あるのだ。
半年も続き。いつ止むこともない雨は、皆の不安を払拭することはなく。何かの天変地異とまで思わせたのだろう。
だって、そうではないだろうか?
苦労して、もしかすると、床下浸水もしている家屋から、命からがら学校へ通うことに、何かの意味を見出すのは、そうたやすいことではないはずである。
学級委員長でもある武は、出席日数はいつも万全だった。
麻生は風邪を引いた日以外は全て学校へと通っていた。
二人の目に高台にある鳳翼学園の校舎が見えて来たようだ。
武の後方から自転車が複数。水飛沫をばら撒きながら追い越していく。二人はいつものことなので気にせずに校門へと向かって行った。
今では、学校へ通う生徒はごくまばらだった。
いい加減に学校側も休校にしたらよいのだが、通いたがる生徒がいるので、仕方なく。小降りの雨なので高台という環境もあってなのか、校舎を解放しているようだ。
午後には決まって水浸しの校舎全体には、明るい笑い声がするので、不思議なことである……。
日本全土の空が泣いていた。
いや、世界中が泣いていた。
昼休みのことである。
麻生が武と共に理科室でお弁当を取り換えっこしている。
「相変わらずね。武のお母さんって、バランスが良いものばかり。うちって、何故か母さんが西洋かぶれだから……。もう、日舞には厳しいのにね」
武は麻生のお弁当の中華のシューマイを食しながら、
「お前の母さんって、色々な海外の食材が楽しいからな。時々、羨ましいよ。俺の母さんって、家であまりにも肉類ばかりだしていた時があったから、その反省」
そんな他愛もない言葉を交わす武と麻生の部屋の片隅に、武の唯一の親友の卓登(たくと) 博文が独りパンと牛乳を食しているようだ。
貧相な奴で、いい奴なのだが口数が少ない。
背も低く。常に下を向いていた。
暗い性格だが、けれども、合気道では武と互角に渡り合えていたことを知っている。
武とは中学の頃からの親友でもあるのだ。
「食い終わったから、教室に戻るよ」
そう一言残して、卓登は立ち上がったが、俯き加減のその目は、いつも、武のスキを見出そうとしている武道家の目をしていた。
道という字が好きな卓登は、小学生の頃に酷いいじめを受けてから、合気道の達人へと昇りつめたのだ。
この理科室には、もう二人。麻生の友達がいた。