第118話

文字数 791文字

「武よ。今は考えるな」
「ああ。俺はあいつのことだけを考えているよ」
 薄屋へと向かって歩いていると、今度はリンエインも交えていた。途中で戦略会議を抜けて来たんだ。あれこれ考えても仕方ないからだ。
 三つの月夜の提灯がもう数多に掛けられ。
 町民は静かに今日の無事のお祝いにと酒屋を探している。
 夜の竜宮城は今は春。
 少し肌寒かった。
 この町にも春夏秋冬があるんだな。明日は少し熱い夏が訪れる。
 薄屋のミンリンはまた俺の隣に座った。
 俺から見ても、ミンリンはリンエインに嫉妬心を抱いているみたいだ。俺には麻生 弥生がいるんだけどなあ。東龍はミンリンに今日も近づけたと無邪気に喜んでいた。せっせとミンリンに手を出しては叩かれていた。
 リンエインはまだ戦略会議の話があるって、俺たちに着いて来たんだけど。俺とリンエインがお茶と団子を注文しているところに、何やら感じ慣れた威圧感を覚えた。ふと、薄屋の出入り口を見てみると、鬼姫さんがいた。
 もう、竜宮城は地球の海域に渦潮を発生させたようだ。
 俺は目頭が熱くなって卒倒しそうなくらいに嬉しくなった。
「武様! ここでしたか!」
「誰? この可愛い人……?」
「す、凄い気!」
 ミンリンとリンエインが同時に驚いた。
「鬼姫さん!」
「え? この人が……?」
「それなら当然強いはずよね……」
 リンエインとミンリンはまじまじと鬼姫さんを見てから、すぐさま震え上がった。それだけ鬼姫さんの気は物凄い。貴重な戦力を得たと隣の席の東龍も大喜びだった。
 どうやら、鬼姫さんだけが安全のためにここ水の惑星へと来たようだ。
「ご注文は。な……何にしますか?」
 気負されたミンリンは俺の傍をすぐに離れ、恐る恐る注文を受けようとしたが、鬼姫さんは俺の手を取り、店の外へと走った。
「多くの龍の気が感じられます。今夜は油断なきよう」
 鬼姫さんの変わらぬ気迫に俺はブルッと武者震いをした。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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