第28話

文字数 608文字

 武の休息の場は、かわいそうだが、これから食堂しかなくなるだろう。
 寝床は鬼姫が占領し、日々の厳しい修練は武にとって、気が抜けないものであろうし。
 やむなきことであった。
 
「龍が一匹近づいている……」
 高取が自室で占いをしている時に感づいたようだ。
「これなら………。私たちでも大丈夫……」
 ここ大船の中でも、高取は武のことを頻繁にタロットカードで占っていた。先のことはあまりわからないが、そうでもしないとと思っているのだろう。
 高取のライバルはほぼ全員なのだから。
 


 轟々と音のする大荒れの海で、武は刀を抜いていた。神鉄という特別な鉄を鍛えた刀身だった。
 ここは存在しないはずの神社から二日後の南西へ300キロの地点。
 もうすでに、太陽が厚い雨雲に覆われ。大泣きの雨が激しく降りかかる海であった。武の目の前には龍がいた。
 こちらに気が付き、咆哮を上げている。
 湯築が船から飛び降り、海の上で助走して海面下へと潜った。
 龍もすぐさま海面下へ潜って大口を開けて迎え撃とうとしたが、その時、雷が一本龍の頭上を直撃した。
 雷を降らしたのは高取である。
 もんどりうった龍の脇腹を湯築の槍が海面下で見事数回穿った。
武が甲板から飛翔し、たまらず浮上してきた龍の頭を一刀両断にした。

「武様……凄い!」
「みんな、よくやったわ!」
 鬼姫と蓮姫はただそう言うしかなかった。
 それだけ武たちのコンビネーションと腕は、もう申し分ないのである。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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