第67話
文字数 1,259文字
恐らくは武との長い稽古の日々ことを思い出しているのだろうな。そうであろう、鬼姫は存在しないはずの神社から武をことのほか好いていたからだ。
だが、それは武が世界を救うからでもあるのだが、武がタケルとなることは知らなかったのである。
けれど、私が見るにはタケルの中には武が今もいるのだ。一つの身体に二つの魂のがあるのである。なので、あまり気にしなくてもよかろう。
つまり、この先。武が表面にでてこないわけではないのだ。
恐らくは武は大きな怪我によって、気を失っているのだけなのだろう。
船内を一回りした鬼姫は頭を冷やしたかのように、いつもの表情で光姫とタケルがいる医務室のドアを開けた。
薬湯の刺激臭に顔をしかめた鬼姫は、光姫とタケルが話している言葉に静かに聞き耳を立てていた。
「タケル様。現状は四海竜王によって極めて不利だったのですが、四海竜王よりも強い貴方様なら楽に退けられましょう。これからこの船で南極という場所へと行きますので、そこはとてもとても寒い場所なのです。ですので……竜宮城へは……」
光姫は色々と現状を説明していた。それを聞いているタケルは相槌を打つこともなく。変わらぬ表情で最後にコックリと頷いた。
「鬼姫さん。すみませんが、タケル様にこの天鳥船丸の船内を案内してくださいませんか?」
聞き耳を立てている鬼姫に気付いていた光姫は、タケルの手を両手で恭しく握り、立ち上がらせた。
鬼姫がコックリと頷いて、タケルの手を引いて医務室のドアを開けると、通路には蓮姫と湯築と高取、そして三人組がひと固まりになってドア越しに聞き耳を立てていた。
鬼姫がドアを開けたその拍子に、ドアに顔をぶつけた湯築は、タケルの方を真剣に見つめていた。やはり、今でも武自体を好いているのだろう。違和感を感じているのだろう。
壁に掛けられた数多の提灯しかない仄かな明かりが照らす通路である。殺風景であるが、度々巫女が行き来していた。
「タケル様……これからの稽古はどうしますか?」
一本道の通路を歩く鬼姫の控えめな声音にタケルは急に頭を掻きだした。
「鬼姫さん。いつも通りでお願いします」
タケルではなく武である。
武は律儀に頭を下げていた。
「武様?!」
その途端、鬼姫は武に抱き着いていた。感極まって涙も流していた。
「良かった……」
鬼姫の顔を間近で覗いた武は、ホッと胸をなで下ろしていた。きっと、自分が死んではいないことに安堵をしたのだろう。
しかし、その次の瞬間に武の顔が強張った。
武は叫んでいた。
「鬼姫さん! 四海竜王が近づいている! けど!」
鬼姫はそれを聞いて神鉄の刀を抜いて甲板へと一目散に走りだした。
「武様はまだ傷が完治していません! 私がでます!」
鬼姫の悲痛な叫び声が通路から伝わった。
それは叫び声だけではないようにも思えた。
甲板へとでた鬼姫に瞬間的に追いついた武は首を振った。
「大丈夫。四海竜王は俺に任せて」
タケルである。
だが、それは武が世界を救うからでもあるのだが、武がタケルとなることは知らなかったのである。
けれど、私が見るにはタケルの中には武が今もいるのだ。一つの身体に二つの魂のがあるのである。なので、あまり気にしなくてもよかろう。
つまり、この先。武が表面にでてこないわけではないのだ。
恐らくは武は大きな怪我によって、気を失っているのだけなのだろう。
船内を一回りした鬼姫は頭を冷やしたかのように、いつもの表情で光姫とタケルがいる医務室のドアを開けた。
薬湯の刺激臭に顔をしかめた鬼姫は、光姫とタケルが話している言葉に静かに聞き耳を立てていた。
「タケル様。現状は四海竜王によって極めて不利だったのですが、四海竜王よりも強い貴方様なら楽に退けられましょう。これからこの船で南極という場所へと行きますので、そこはとてもとても寒い場所なのです。ですので……竜宮城へは……」
光姫は色々と現状を説明していた。それを聞いているタケルは相槌を打つこともなく。変わらぬ表情で最後にコックリと頷いた。
「鬼姫さん。すみませんが、タケル様にこの天鳥船丸の船内を案内してくださいませんか?」
聞き耳を立てている鬼姫に気付いていた光姫は、タケルの手を両手で恭しく握り、立ち上がらせた。
鬼姫がコックリと頷いて、タケルの手を引いて医務室のドアを開けると、通路には蓮姫と湯築と高取、そして三人組がひと固まりになってドア越しに聞き耳を立てていた。
鬼姫がドアを開けたその拍子に、ドアに顔をぶつけた湯築は、タケルの方を真剣に見つめていた。やはり、今でも武自体を好いているのだろう。違和感を感じているのだろう。
壁に掛けられた数多の提灯しかない仄かな明かりが照らす通路である。殺風景であるが、度々巫女が行き来していた。
「タケル様……これからの稽古はどうしますか?」
一本道の通路を歩く鬼姫の控えめな声音にタケルは急に頭を掻きだした。
「鬼姫さん。いつも通りでお願いします」
タケルではなく武である。
武は律儀に頭を下げていた。
「武様?!」
その途端、鬼姫は武に抱き着いていた。感極まって涙も流していた。
「良かった……」
鬼姫の顔を間近で覗いた武は、ホッと胸をなで下ろしていた。きっと、自分が死んではいないことに安堵をしたのだろう。
しかし、その次の瞬間に武の顔が強張った。
武は叫んでいた。
「鬼姫さん! 四海竜王が近づいている! けど!」
鬼姫はそれを聞いて神鉄の刀を抜いて甲板へと一目散に走りだした。
「武様はまだ傷が完治していません! 私がでます!」
鬼姫の悲痛な叫び声が通路から伝わった。
それは叫び声だけではないようにも思えた。
甲板へとでた鬼姫に瞬間的に追いついた武は首を振った。
「大丈夫。四海竜王は俺に任せて」
タケルである。