第110話

文字数 1,402文字

「ああ……けど、俺は未成年だから……」
 疲れで肩で息をしながら俺は自分でも真面目過ぎだなと思った。
 ここでは年齢は関係ないようにも思うけど……。やっぱな……。
「未成年? なんだ? 酒が飲めない病気か?」
「いや、違うけど。まあ、団子とお茶を頂くよ」
 東龍は俺の肩を叩き。
「ならいい。ほら、行こうぜ!」
 俺は東龍に連れられ、竜宮城の城下町の一角へと案内された。この町では東龍には友人が多いんだって、店の前に立つと一人の女性が俺を迎えた。
 数多の提灯で幻想的な灯りに仄かに照らされた美しい女の人を、東龍が名前はミンリンだと紹介してくれた。
 なんでもミンリンは城下町随一の美しさを持つ薄屋の看板娘だという。見た目は19歳くらいの若い女性だったけど、実際には数千年も生きているんだって。黒のロングヘアに淡い水色の中国衣装の漢服(別名ハンフーともいう)が印象的だった。
 東龍から数ある恋人候補の一人だとも教えてもらった。 
 空はもう真っ暗だった。光源は月が三つもあるけど数多の提灯が浮かんでいないと、足元もおぼつかない。それでも、行き交う人々が絶えない。大いに賑わう夜。俺は東龍とミンリンに連れられ薄屋の奥の席へと向かった。
 早速、東龍は薄屋の一角に座って豪快に注文すると、向かいの席の俺に酒を勧める。
「武よ。酒は美味いぞ! 騙されたと思って飲んでみろ」
「いや、俺は……」
 俺は困って、東龍の隣席の南龍を見た。 
 南龍はそんな俺にはまったく気付かないかのように、ただひたすら黙々と食べていた。豚の頭。饅頭。ワンタンと白身魚のスープ。坦坦麺。焼酎を二升。ビール。豚足とニラの炒め物など、一気に平らげてしまう。なんとも大食いな。
 そんな南龍は少年の姿をしているけど、俺は油断は禁物だと思った。元は1万歳の超巨大な強い龍なんだよな。
 でも、俺はなんだか、南龍にも好感が持てた。共に生死を賭けた戦いをしているからか、またはこれからも今度は仲間として共に戦うからか。
 喧騒の激しい店内には、大勢の魚人たちがお酒や食べ物にありついている。ここ薄屋は皆にとりわけ好まれているようだ。老舗だけあって、客と客席は十分にあった。
 俺は団子と饅頭とを食べながら、お茶で喉に優しく押し込んでいた。団子も饅頭も、これはさすがに美味いな。でも、確かにしっかりと食べているけど、もっぱらいつものことで、ここでも気を極度に集中しながら食べていた。
 まだまだ修練をしなくちゃな。
 いつだったか。独自で編み出した修練法。これをやると、いざという時に気を開放する場合に有利だ。気が常時体内を充満しているようになるからだ。
 おや? ミンリンが俺たちの席に来た。
 すぐに東龍はミンリンのお尻を触り、即座に頬や頭を叩かれてしまっている。
「あんたねー! いっつもいっつもー! 懲りないわねー!」
 ミンリンはとても怒っている。けど、何やら照れてもいる。おや、気を集中していているからわかるんだ。俺の顔を密かに盗み見ている。
 外はもう真っ暗だけど、ここ薄屋は明るくすごく賑わっていて、その喧騒や仄かな光がそのまま外へと漏れ出していた。
 東龍はこともなく酒を飲んでいた。
 東龍にとっては恋人候補は100人はいるって聞いているし。東龍自身はそれでも少ないんだとも言っていた。あまりやきもちは焼かないんだとも言い。そんな東龍は俺にはあいつがいることを知っているからだろう。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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