第34話

文字数 737文字

 あれから存在しないはずの神社から南西へ約600キロの地点に武たちはいるようだ。
「存在しないはずの神社から東京までの距離は約1000キロもあったのね」
 高取である。
「おれたちは北海道付近にいたんだな」
 
 ここは広い天鳥船丸の操舵室である。
 
 武たちがいる広い操舵室には、コンパスがテーブルの中央にあった。ここも殺風景で、丸い窓以外、木製の壁や床しかないのでは、と思えてしまうほどだった。
「これから東京へ行くのかしら?」
 湯築がテーブルの南西を指している黒い点のあるコンパスを見ながら素朴な疑問をていした。
 今では東北の地の遥か上空にいた。
 巫女たちが望遠鏡で四方を確認しているようだ。
 今のところ龍の脅威はない。
「ええ、そのことなんだけど。これから私の母方の従姉妹に会うようよ。とても不思議な人だった。あまり話したことはないけど、なんでも政府とも関係していて、日本の将来の吉凶を占う一族の人って、母さんから聞いた時があるの」
 どうやら、高取は知っていて、私は知らなかったようである。
「今は政府のどこかの機関へ一人海を歩いているって、地姫さんが言っていたわ。政府の機関とお偉いさんたちがいっぱい集まっているようね。それに私たちも加わるみたいね」
「お偉いさんたちとか……なんだか緊張するな」
「仕方ないのよね。地姫さんたちだけってわけにもいかないのかしら?」

 暗雲がすぐ手を伸ばすところにあった。
 この天鳥船丸は東京へと真っ直ぐに向かっているようだ。
 下の海上は今のところ穏やかで、龍の襲撃もない。
 太陽がない海である。
 鳥も空を飛ばず。飛び魚も姿がない。荒れ狂う海には、まるで海面に穴を穿つかのような落雷が激しく降り注いでいた。

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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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