第93話 竜宮城伝説

文字数 1,131文字

 空はこの上なく快晴だった。
 カモメも飛び交い。
 虹が空をまんべんなく彩っていた。

 なんとも美しい限りであが、この星は生きながらえ、もはや本星は死に絶える運命だろう。それはもう揺るぎない事実なのだ。
 ああ、私の望郷は終わりを告げるのだな。
 見上げると、遥か上空の天鳥船丸と虚船丸は、竜宮城の巨大な城下町をゆっくりと通過していた。下方には魚人たち庶民全てが空に浮かぶ大船の群れを見つめている。皆、諦め顔をするもの、絶望すら漂わせているものである。それもそのはずで、もう雌雄が決しているのだから。
 どうやら乙姫も完全に降伏をしているだろう。
城の城門を開けているのだろうな。
 もう敵らしい敵は皆無であろう。

 おや?

 天鳥船丸で治療を受けた武は、一人甲板の先端で竜宮城を見た。
「綺麗だ……」
 武は前方に聳える四季彩るそれはそれは美しき竜宮城をいつまでも見つめていた。今は竜宮城は夏の葉が城に舞い落ちている。
「あれが、竜宮城……」
 隣に佇む湯築が来て髪を掻き掲げ、呟いた。
「ほんと、美しいわね」
 その隣の高取は四海竜王との戦いの時に引いたカードを思い出しているのだろう。俯き加減で複雑な顔をしている。
 武の怪我はどうやら道中で治療を受けたようだ。片腕を包帯で吊っていた。
 もう、これから戦うことは永久にないのであろう。
 だが……。

 幾ばくかの不穏さが城に充満しているのは私の気にしすぎであろうか?
 はて? 鳳翼学園はどうであろうか?
 地姫がこちらに来たのだ。
 麻生と卓登が心配になってきた。
この先、何かが待ち受けているやも知れぬ。
 


ここは鳳翼学園。

 武たちが城下町を通過している際に、少しだけ寄ってみた。
「地姫さん……なんだか……嫌な感じがするの……」
 麻生が2年B組の窓際で一人空を見上げている。
 四海竜王との戦いは、もうすでに終わっているのだが、麻生も私と同じくじわじわと胸にくる不穏な空気を吸っているのだろうか。
「なんか嫌な空気だな……武は大丈夫か?」
 卓登が麻生の隣に来て同じく空を見上げた。
 教室内は皆、寝静まっていた。今はすっきりとした満月の深夜である。どうやら不穏な空気で二人は起きだしたのだろう。

「どうしてかしら……武がもう戻ってこないような感じがするの……」
 麻生は気が付いていないだろうが、自然と涙を流していた。
「そんなはずはないよ。武なら心配することは何もないって。だって、あの学園一不思議な女の高取も付いているんだしさ」
 卓登は咄嗟にハンカチを取り出そうかと考えたようだが、止めたようだ。武と麻生の二人の間には、何人たりとも入れないのをよく知っていたのだ。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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