第112話

文字数 1,009文字

「姫様。竜王は今も竜宮城へと近づいているのでしょうか?」
 中空を見つめる乙姫が言った。
「ええ。そのようですね。時に、ここ竜宮城は地球にはいくらか近づけましたか? 敵は北へと行けば行くほど水淼の龍族がこちらへと来ているので。恐らくは水晶宮自体がここへと接近してきている証拠なのでしょう。おや? さっそく来ましたね。しばらく海の四方へ斥候をだしたままにしていてください。では、私は行ってきます」
 どこかからか、乙姫と同じ声が木霊した。
「御意。本星が地球に近づくには、さほど時間はかかりませんでしょう」
 俺は何を言っているのかはわかるが、誰に言っているのかはわからなかった。
 乙姫が俺を起こそうとする。

「武! 起きて下さいまし! 敵に囲まれています! 竜宮城の海域は広く。おおよそ十万平方メートルはありますが。ですが、敵はかなり近くまで来ていますね。それも大勢のようです! 四海竜王は竜宮城の竜王の間へと急いでいることでしょう。そこで、魚人の長老たちから戦略、戦術を授かるのです! さあ、あなたも!」

…………

 俺はそれを聞いて、すぐに一人で飛び出していた。ここから竜宮城の海域の西側へと向かっていた。
 なんで、一人で突っ走ったかというと、俺には幻の剣があるからだ。轟々と荒波の中。物凄い数の巨大な龍が迫って来ていた。
 おおよそ8千歳は生きているだろう逞しい龍だった。
 城下町まで来たら最後だ。砂浜で踏ん張るしかないと、俺は考え。 
「でや!」
 タケルになって気を開放した。
 荒ぶる嵐のようなタケルの気で、数多の龍が一瞬怯んだ。その隙に、龍尾返しを大海に打つ。
 海が悲鳴を上げる。
 大穴の空いた海へと何十体の龍が落ちていった。
 竜宮城の四方にどうやら、四海竜王が散らばったようで、ここ東の方角の海には東龍が来た。
「さあ! 楽しもうぜー! 武よ!」
 東龍が元の巨大な銀色の龍へと姿を変える。
「西側の方へ行ってくれ! 西龍が危なそうだ!」
 俺は龍の姿の東龍へと叫ぶと、幻の剣をまた使う。
 龍尾返しによって、幾度も大海は荒波を巻き上げて大穴を空けていった。
 一網打尽。
 そんな言葉が俺の脳裏に過った。
 しばらくすると、魚人の大軍もここ大海原へとなだれ込む。
 少し疲れた俺はタケルのまま龍の群れへと突進した。
 雨の村雲の剣を袈裟懸けに振り、一体を斬った。
 東龍の体当たりで二体の龍が吹っ飛んできた。
 それを空中で斬り裂きとどめを刺した。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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