第120話

文字数 781文字

 城下町の人々は大混乱だった。俺は鬼姫さんと人々の身体を掻き分けながらここ城下町の東へと、走りに走った。
 途中で倒れた魚人がいたので、鬼姫さんが起こした。
「ありがとう! 必ず倒してくれよ! 俺たちを救ってくれ!」
 魚人の人は怯えて言い放った。
「はい!」
「はい!」
 俺と鬼姫さんは同時に頷いた。

 城下町と大海を繋ぐ砂浜に着くと、轟々と音のする激しい荒波から数多の龍が迫り来る。針のように細長い龍が三体。水淼の岩山龍が二体。水淼の大龍が一体いる。どうやら、リンエインの言った通りに、これなら主力部隊なんだなと頷けた。
 俺は早速、砂浜に両の足で踏ん張ってから、そのままくるりと背を向けると、龍尾返しを一振りしようとした。
「武様! お待ち下さい! ここは後々のため。幻の剣で斬って差し上げます!」
 鬼姫さんが、俺の肩にその小さな手を置いてから、一呼吸し神鉄の刀を抜いた。
「ハーッ! 水波!!」
 鬼姫さんが砂浜から踏み込んで、刀を上段から振り下ろすと、目の前の大海のど真ん中の波が真っ二つに裂けた。無数の龍の血潮や水しぶきをまき散らしながら、一直線に水を裂いていく一陣の風圧が水平線まで走っていた。
「よし!」
 俺も見よう見まねで水波を放とうとしたが……。
「武! このままじゃいけない!」
 後ろを見ると、息が荒い北龍だった。

「今、竜宮城は四方を囲まれているんだ! 東西南北だ! ここだけ守っても意味がないんだ!」
 北龍はそう言うと、砂浜からここに走って来たリンエインの方を向く。
 ゼエゼエと荒い呼吸を整えてリンエインは叫ぶ。
「西には西龍! 北には東龍! 南には南龍が行ってくれているけど! 魚人の軍勢は数が少なくて四方には裂けられないの! 四海竜王だけで戦うのならはっきり言って無謀よ! 武は足が早そうだから四方へ回って龍を討つの! ここは鬼姫さんと北龍に任せましょう!」

 
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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