第16話
文字数 1,239文字
武は目を覚ました。
夢を見ていたのだ。
悪い夢とまでは言えないが、やはり悪夢に近いのである。
武のさっきまで見ていた夢は、さすがに私も夢の中までは見えないので、あの日曜日のことを話そう。
ここは鳳翼学園。
轟々と音のする渦潮から龍が昇った。
いや、一体ではない。
四つの龍が昇った。
すでに、自衛隊のヘリコプターを噛み砕いた龍は、吹雪の足に噛みついていた。吹雪は気を失ったようである。麻生と卓登は、吹雪を助けるために屋上に留まったようだ。高取は、屋上の入り口の階段付近で、あらかじめ用意しておいた救命具の数を数えていた。
美鈴が悲鳴を上げ、学園内に避難したようだ。
それぞれの龍は新たな獲物を見つけると、嬉々として咆哮を上げた。
「早く逃げないと!」
卓登はアスファルトを血塗れにしている吹雪を、なんとか肩に担ごうとしていた。
一体の龍が咆哮を上げながら、鎌首を卓登へ向けた。
「私が囮になるから!」
麻生は地面を蹴って五体の龍の中央へと、走り出した。
吹雪を屋上の入り口まで運ぼうとしていた卓登が悲鳴を上げた。その時、屋上の入り口から武が踊りでた。
武は真っ先に麻生の元へと辿り着くと、麻生に噛みつく寸前の龍の顎目掛けて正拳を打ち放った。ごりっとした音と共に、鮮血が辺りに舞った。
龍の顎から血が出たのと同時に、武の腕には、もう一体の龍の大口がすかさず食らい付いていた。麻生は、気を確かに持って、武の腕を龍の大口から引き離そうとした。
やっと、それぞれの生徒の家族や教師が卓登と吹雪を学園内へと非難させ、五体の龍目掛けて椅子や机を投げつける。
五体の龍の咆哮は少しも衰えていなかった。
何人かの人が龍に噛みつかれて傷ついた。
中には、龍の牙で大怪我をした人もいた。
武は牽制のために、瞬く間の体さばきで五体の龍の顎へと数打正拳突きをのめりこませると、それぞれ血を流した五体の龍が怒りだした。
五体の龍が屋上のアスファルト目掛けて、頭から突っ込んだのだ。
バラバラに粉砕した床から、人々が海へと落ちていく。
一方、高取はこのどさくさ紛れに湯築に救命具の二つを渡していた。バランスを失った地面の上で、何も言わずに湯築は救命具を付けて武の元へと走った。それと同時に高取も武の元へと走り出した。
麻生は目を瞑った。
傍の武は麻生を庇った。
五体の龍の大口が迫っていたのだ。
「もう、ここも駄目ね」
隣に佇む麻生が呟ていた。その表情は暗く、どこか寂しげのように思えた。
「おれ。変わらないから……そう、いつまでも……」
武は死を覚悟した。
救命具を付けた湯築は、麻生を引き離し、なんとか龍の大口から逃げおおせた。二人が向かったのは粉々になった屋上の入り口付近である。
今度は武に五体の龍が向かった。
それぞれ空を切るような早さの龍。だが、高取は武に救命具をつけると共に、すぐさま海へと転落した。
夢を見ていたのだ。
悪い夢とまでは言えないが、やはり悪夢に近いのである。
武のさっきまで見ていた夢は、さすがに私も夢の中までは見えないので、あの日曜日のことを話そう。
ここは鳳翼学園。
轟々と音のする渦潮から龍が昇った。
いや、一体ではない。
四つの龍が昇った。
すでに、自衛隊のヘリコプターを噛み砕いた龍は、吹雪の足に噛みついていた。吹雪は気を失ったようである。麻生と卓登は、吹雪を助けるために屋上に留まったようだ。高取は、屋上の入り口の階段付近で、あらかじめ用意しておいた救命具の数を数えていた。
美鈴が悲鳴を上げ、学園内に避難したようだ。
それぞれの龍は新たな獲物を見つけると、嬉々として咆哮を上げた。
「早く逃げないと!」
卓登はアスファルトを血塗れにしている吹雪を、なんとか肩に担ごうとしていた。
一体の龍が咆哮を上げながら、鎌首を卓登へ向けた。
「私が囮になるから!」
麻生は地面を蹴って五体の龍の中央へと、走り出した。
吹雪を屋上の入り口まで運ぼうとしていた卓登が悲鳴を上げた。その時、屋上の入り口から武が踊りでた。
武は真っ先に麻生の元へと辿り着くと、麻生に噛みつく寸前の龍の顎目掛けて正拳を打ち放った。ごりっとした音と共に、鮮血が辺りに舞った。
龍の顎から血が出たのと同時に、武の腕には、もう一体の龍の大口がすかさず食らい付いていた。麻生は、気を確かに持って、武の腕を龍の大口から引き離そうとした。
やっと、それぞれの生徒の家族や教師が卓登と吹雪を学園内へと非難させ、五体の龍目掛けて椅子や机を投げつける。
五体の龍の咆哮は少しも衰えていなかった。
何人かの人が龍に噛みつかれて傷ついた。
中には、龍の牙で大怪我をした人もいた。
武は牽制のために、瞬く間の体さばきで五体の龍の顎へと数打正拳突きをのめりこませると、それぞれ血を流した五体の龍が怒りだした。
五体の龍が屋上のアスファルト目掛けて、頭から突っ込んだのだ。
バラバラに粉砕した床から、人々が海へと落ちていく。
一方、高取はこのどさくさ紛れに湯築に救命具の二つを渡していた。バランスを失った地面の上で、何も言わずに湯築は救命具を付けて武の元へと走った。それと同時に高取も武の元へと走り出した。
麻生は目を瞑った。
傍の武は麻生を庇った。
五体の龍の大口が迫っていたのだ。
「もう、ここも駄目ね」
隣に佇む麻生が呟ていた。その表情は暗く、どこか寂しげのように思えた。
「おれ。変わらないから……そう、いつまでも……」
武は死を覚悟した。
救命具を付けた湯築は、麻生を引き離し、なんとか龍の大口から逃げおおせた。二人が向かったのは粉々になった屋上の入り口付近である。
今度は武に五体の龍が向かった。
それぞれ空を切るような早さの龍。だが、高取は武に救命具をつけると共に、すぐさま海へと転落した。