第20話 龍のアギト
文字数 1,192文字
「もう掃除も終わりの時間ですね」
あれから二時間後である。
一息ついて、鬼姫は武の方へ向かい「お疲れ様でした」と頭を下げたようだ。
「お疲れ様でした」
武も律儀に頭を下げたが、ここから見ても、あまり疲れていないようだ。
武の中で何かが変わりつつある。
武に鬼姫は優しく接してくれている。だが、当然稽古以外はである。
これならば、武の武運次第では、数多の龍を打ち倒していけるだろう。 けれども。 乙姫の説得。 竜宮城の侵略。 様々な恋。思慕。 これらを解決せねばならないのだ。サンサンと照らされた広い境内を掃除していた巫女たちも、そろそろ掃除道具を片付けだしたようだ。
ここは廊下である。
「武様!」
「武様! 高取さんが!」
「武様! 高取さんが! 倒れたって!」
あれから修練の間の自分の番まで、木刀を軽く振り続け、息を整えている武の元へ。あの三人組がいた。何でも、高取が倒れたようである。廊下の壁にある時計を見ると、午前の9時。武たちは午前と午後に二回にわけて修練の間を使っていた。
「鶴は千年亀は万年……私は二十歳」
呑気な声である。
武は声のした方を見た。
地姫である。
地姫は何事もなかったかのように、微笑んでいる。その向こう修練の間から、高取が真っ青な顔をしてフラフラと歩いてきた。
「高取……大丈夫か? どうしたんだ?」
武は高取に向かって心配気な声を投げかけたが、当の高取は荒い呼吸を整えるのに必死のようだ。時折、口を両手で抑えては「うっ」と苦しんでいる。
武が地姫に事情を聞くと、地姫はニッコリと笑ってこう答えた。
「大丈夫よ……今は少し無茶な修行をしているのです」
「え?!」
武は高取の袂へと駆けだした。
「大丈夫……これくらい」
血の気の引いた顔で、高取は歯を食いしばった。
「大丈夫?!」
次の修練の間の番の湯築も廊下の角から心配して高取の傍まで駆けつけた。湯築の後ろの蓮姫も心配そうな顔である。
「少し無茶だけど、これくらいできないといけません!」
と、地姫は厳しい。
地姫は、それ以上何も言わずに自分の部屋へと戻って行った。
「厳しいッスよね」
「厳しいよね」
「でも、強くなるはずよ。武様のように」
三人組が口ぐちに言っていた。
実は高取の修練は、神々の降霊である。
皆、高取の番の時だけ修練の間から廊下の空気が氷のように冷たくなることや、かまどのように熱くなることを知らないのだ。
それからの武と湯築は、厳しい稽古を鬼姫と蓮姫に申し出たようだ。
鬼姫と蓮姫も二人の気持ちをよくわかっているのだろう。快く承諾したようだ。
私もわかるのだが、きっと、武は高取だけに厳しい稽古をさせたくないと思っているのだろう。
当然、負担を掛けたくないと思っているのだろう。
はたまた湯築にとってはライバル意識からか。
二人はそれぞれの高取への気遣いと対抗意識を燃やしているのだろうか?
あれから二時間後である。
一息ついて、鬼姫は武の方へ向かい「お疲れ様でした」と頭を下げたようだ。
「お疲れ様でした」
武も律儀に頭を下げたが、ここから見ても、あまり疲れていないようだ。
武の中で何かが変わりつつある。
武に鬼姫は優しく接してくれている。だが、当然稽古以外はである。
これならば、武の武運次第では、数多の龍を打ち倒していけるだろう。 けれども。 乙姫の説得。 竜宮城の侵略。 様々な恋。思慕。 これらを解決せねばならないのだ。サンサンと照らされた広い境内を掃除していた巫女たちも、そろそろ掃除道具を片付けだしたようだ。
ここは廊下である。
「武様!」
「武様! 高取さんが!」
「武様! 高取さんが! 倒れたって!」
あれから修練の間の自分の番まで、木刀を軽く振り続け、息を整えている武の元へ。あの三人組がいた。何でも、高取が倒れたようである。廊下の壁にある時計を見ると、午前の9時。武たちは午前と午後に二回にわけて修練の間を使っていた。
「鶴は千年亀は万年……私は二十歳」
呑気な声である。
武は声のした方を見た。
地姫である。
地姫は何事もなかったかのように、微笑んでいる。その向こう修練の間から、高取が真っ青な顔をしてフラフラと歩いてきた。
「高取……大丈夫か? どうしたんだ?」
武は高取に向かって心配気な声を投げかけたが、当の高取は荒い呼吸を整えるのに必死のようだ。時折、口を両手で抑えては「うっ」と苦しんでいる。
武が地姫に事情を聞くと、地姫はニッコリと笑ってこう答えた。
「大丈夫よ……今は少し無茶な修行をしているのです」
「え?!」
武は高取の袂へと駆けだした。
「大丈夫……これくらい」
血の気の引いた顔で、高取は歯を食いしばった。
「大丈夫?!」
次の修練の間の番の湯築も廊下の角から心配して高取の傍まで駆けつけた。湯築の後ろの蓮姫も心配そうな顔である。
「少し無茶だけど、これくらいできないといけません!」
と、地姫は厳しい。
地姫は、それ以上何も言わずに自分の部屋へと戻って行った。
「厳しいッスよね」
「厳しいよね」
「でも、強くなるはずよ。武様のように」
三人組が口ぐちに言っていた。
実は高取の修練は、神々の降霊である。
皆、高取の番の時だけ修練の間から廊下の空気が氷のように冷たくなることや、かまどのように熱くなることを知らないのだ。
それからの武と湯築は、厳しい稽古を鬼姫と蓮姫に申し出たようだ。
鬼姫と蓮姫も二人の気持ちをよくわかっているのだろう。快く承諾したようだ。
私もわかるのだが、きっと、武は高取だけに厳しい稽古をさせたくないと思っているのだろう。
当然、負担を掛けたくないと思っているのだろう。
はたまた湯築にとってはライバル意識からか。
二人はそれぞれの高取への気遣いと対抗意識を燃やしているのだろうか?