第44話

文字数 939文字

 震える肩を摩った高取は、キッと口を結んで耐えていた。
 開口一番。
「お姉さん? で、いいのかな? これから私の稽古役をしてほしい。あまり会ったことがないけど、話はよく聞いているから」
 光姫はニッコリ笑っている。
「はい。里奈には教えていいわね。私の能力は……」

 その時、ドシンと建物が強く揺れた。
 武と鬼姫が窓際に即座に向かうと同時に、天井から埃が舞って来た。
「揺れたましたー!」
「揺れました!」
「武様! 窓の外に龍がいます!」
 三人組の美鈴が言う通りに、数体の龍が窓をゆっくりと通り過ぎて行った。
「ここにいるのはマズイ! みんな外へ出よう!」
 武がそう言った。
 しかし、エレベーターはこの衝撃で、恐らくは止まっているだろう。
 それと、致し方ないが。高取は海南首相と光姫に会うことだけを占っていたのだろう。その後のことは占っていなかったのだ。
 私も知らなんだ。
 光姫と首相はそれほど大きな存在だったのだ。

 私は武から離れて、このビルの周囲を見た。
周囲に優に1000は超える龍が集っていた。
「平気です!」
 不敵な表情の光姫は感づいていたのだろう。
 こうなることを……。
 これから光姫が数多の龍が徘徊する海を、遥々北海道から歩いてこれたことがわかるであろう。
 
「この乗り物は動きません!」
「この高さじゃ、飛び降りるのも無理ね!」

 鬼姫と蓮姫はエレベーターへと向かったが、ボタンを押してもやはりエレベーターは動かなかった。ドシンという大きな衝撃音と振動は更に強くなっていた。強い衝撃でエレベーターは完全に動かなかった。
 鬼姫と蓮姫は都会どころかエレベーターにすら疎いのだ。いや、知らないのだ。致し方ないのだが。
 武と湯築と高取は切迫して、エレベーターを再度動かそうと考えているのだろうが。
 三人組はいつも通り落ち着いていた。
 私はこのビルの外を見てみる。数体の龍がビルに何度も体当たりをしていた。
「鬼姫さん、蓮姫さん、光姫さん……仕方ないから階段だ! 湯築と高取は三人組と、ここで待っててくれ! すぐにおれたちがエレベーターを動かしてみせる!」
 武は鬼姫の手を取って、蓮姫と光姫を促し廊下を慌てて駆けだした。
 

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み