第60話

文字数 849文字

 これには、東龍も顔をしかめたようだ。

「フフ、面白かったぜ! 武よ! だが、まだ遊びは終わってないぜ! これからだ!」
 東龍は脇腹を摩ってすぐに笑顔になり片手の親指を立て、身を翻し海へと飛び込んだ。それにしてもなんという素直な笑顔であろうか。
 今度は、海から凄まじいまでの振動が天鳥船丸を襲った。
 まるで天変地異のようだ。異変の中、危機に対して天鳥船丸と多くの虚船丸がすぐにひとりでに宙に浮きだした。
 武はというと大揺れに揺れる床板を、なんなく走って来た湯築が甲板の床に押し倒していた。
 遥か上空へと浮いた天鳥船丸と多くの虚船丸の前には、海上から昇った東龍の真の姿である巨大な銀色の龍の顔があった。
 武は未だ湯築と一緒に伏せていた。
 鬼姫たちはやっとのことで天鳥船丸の床板でバランスを取っていたが皆、武器を構える。
 天鳥船丸と数多の虚船丸がすぐさま舵を取ったが、時すでに遅く。何隻かの虚船丸が東龍の鎌首の横薙ぎによって空中でバラバラに粉砕された。
 高取の落雷が東龍の頭上に直撃し、それとともに東龍の姿が一際、大きく銀色に輝いて見えた。
「いけない!」
 光姫が弓矢を構え、東龍の面前で矢を放った。
 その矢は東龍の額を穿ち、おおよそ1000歳の龍ならば貫通することができるであろうが、東龍にとっては大きな蜂が刺した程度であろう。
 即座に鬼姫が居合い抜きをした。
 剣に宿った気が東龍に向かって、迸るが。東龍は無傷だった。
「でやっ!」
 次に武が横一文字に神鉄の刀を居合い抜きし、剣に宿る気を放った。今度は東龍はそれを後退して躱した。
 東龍にとっては、素直な遊び心があるのだろう。
 ここから見ても、その龍は笑っているようにも思えた。
 武は二の太刀、三の太刀と刀を振るう。
 鬼姫も神鉄の刀からの剣に宿る気を幾度も放つが、いずれも東龍は素早く躱していた。
 間違いなく。剣から生ずる気では東龍の鱗には、傷一つつけられないのであろうが。
 やはり、東龍は遊んでいるのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み