第107話

文字数 950文字

「武。今日の稽古はこれくらいにしようか。後は麻生さんとデートかい? こんな時だからこそしっかりとデートするんだよ。辛いだろうけど、もう二度とできないと思いな……。あと、幻の剣の龍尾返しはまだまだなのだから、水の惑星でもしっかり稽古するんだよ」
 蓮姫さんの半分茶化して真摯な声に俺は顔を真っ赤にすると、鬼姫さんも顔が真っ赤になって即座にそっぽを向いた。ここからでは鬼姫さんの横顔しか見えないけれど……いや、見ない方がいいかもな……。
「……はい!」
 俺は額に浮き出た汗を拭ったけど、疲れが吹っ飛んだ元気な声を出していた。
 急いで一人。小島から船を漕いで存在しないはずの神社に意気揚々と向かった。それにしても、鬼姫さんの横顔は一体どんな顔だったんだろう?
 さて、やっと存在しないはずの神社に辿り着いた。浜辺に小船をつけてすぐに麻生を呼びに行こうとしたら、あいつが浜辺で待っていた。勢いよく小舟に飛び乗って来て、俺に抱き着いて来た。
「武! このまま船でこの神社を一周しましょ!」
「ああ……。朱色の間で待っててくれっていったのにな……」
「ふふふ……」
 そのまま船で神社を一周した。
 そういえば、あいつと二人でデートに海を選ぶのは久しぶりだな。
 サンサンと日光が照らす海の上の赤い橋に、高取に湯築。そして、鬼姫さんたちが集まった。波風が多い日だ。生い茂る草木が風を受けては揺らぎに揺らいでいる。
 ここ存在しない神社で三週間が経った。大きな渦潮がこの神社の海に発生したと地姫さんから聞いた日。俺は旅立つことを決意した。
「武! 頑張ってね!」
「必死で頑張ればいい。死ぬことはないはず」
「御武運を」
「幻の剣。思いっきり見せてやりな」
「ご無事……を」
「ご無事を森羅万象に祈りますね」
 湯築。高取。鬼姫さん。蓮姫さん。地姫さん。光姫さん。みんなが俺を応援してくれた。
 それから、俺はあいつに真剣に向くと、
「行ってくるよ!」
「武! 頑張ってね!」
 あいつはいつものように明るい笑顔で抱き着いて来た。
 俺はあいつと軽くキスをすると、早速前方の海の渦潮に向かって泳いだ。
 轟々と海に穴が空いたかのような中心ができ、水の円が描かれている。
 これで水の惑星へと戻れるだろう。

 そして、天敵である水淼の大龍とたちまち決戦になるはずだ。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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