第71話
文字数 980文字
白い珊瑚礁の円卓での会議であった。
影武者は、10人の魚神の変化の魚人たちの言葉に静かに聞き耳を立てている。乙姫の背後の私も聞き耳を立てるが。
耳にするのは四方の滝の音と魚人の一方的な控えめな声だけだ。
「このままでは本星の水が……完全に……いやしかたないので……」
「わかりました……よしなに……」
重要な会議でも私の影武者は何も言わなかったが、けれども、一つの案件にだけ頷いていた。
乙姫はいつも会議室に使う水の流れ落ちる円卓の間からでると、自室へと向かう。今日一日で何件かの事柄を聞いたが、今のところ一つの案件のみ頭に入っていた。
ここ地球は取り分けて好きだった。
数多の惑星の中で。
だが、致し方ないのであった。
乙姫の影武者は目を瞑り酷い葛藤で佇んでいると、自室への道すがら、東龍が水の流れる壁に寄り掛かっていた。こちらに気がつき囁いた。
「姫様。武はすごく良い奴だった……」
東龍も恐らくは南龍でさえも地球への侵略を望んではいないのだろう。10メートル間隔で、幅のある廊下の天井は春夏秋冬と入れ変わる。
天井の枝葉や行灯の光も枯れたかのようだった。
ここでは冬の廊下であった。
柔い光の行灯が壁の上部に連なり、枯れた落ち葉が、時々地面に落ちてくる。何やら底冷えしてしまいそうな廊下である。
私は随分久しいなと思った。
「……もう……遅い。武とは一度は会ってみたかったな……」
乙姫はそれだけ言うと、四季から切り取られた窓から、遥か彼方の海の向こうを見つめた。乙姫の瞳には遠い遠い海の最果てに、武の姿があるのだろう。
いずれ、決断をしたことに後悔をするのだろうが、今は雌雄を決して準備に取り掛からなければならないのだ。
どちらの星の生命が生き残るのか? それが今の唯一の問題であった。
自室で乙姫である影武者の彼女と私が話すことは、何百年ぶりかとも考えているのだろう。だが、片付けないといけない事柄は幾つもあるのだ。
乙姫の自室は、昔と何ら変わっていなかった。
壁には温水や冷水が入り乱れて流れ落ち。所々、調度品である色とりどりの珊瑚が飾られている。壁面には水が撥ねる絵画があり、うら若い少年たちがこちらにお辞儀をしていた。
私は乙姫の前に立った。
「久しいな……」
「お久しぶりにでございます」
影武者は、10人の魚神の変化の魚人たちの言葉に静かに聞き耳を立てている。乙姫の背後の私も聞き耳を立てるが。
耳にするのは四方の滝の音と魚人の一方的な控えめな声だけだ。
「このままでは本星の水が……完全に……いやしかたないので……」
「わかりました……よしなに……」
重要な会議でも私の影武者は何も言わなかったが、けれども、一つの案件にだけ頷いていた。
乙姫はいつも会議室に使う水の流れ落ちる円卓の間からでると、自室へと向かう。今日一日で何件かの事柄を聞いたが、今のところ一つの案件のみ頭に入っていた。
ここ地球は取り分けて好きだった。
数多の惑星の中で。
だが、致し方ないのであった。
乙姫の影武者は目を瞑り酷い葛藤で佇んでいると、自室への道すがら、東龍が水の流れる壁に寄り掛かっていた。こちらに気がつき囁いた。
「姫様。武はすごく良い奴だった……」
東龍も恐らくは南龍でさえも地球への侵略を望んではいないのだろう。10メートル間隔で、幅のある廊下の天井は春夏秋冬と入れ変わる。
天井の枝葉や行灯の光も枯れたかのようだった。
ここでは冬の廊下であった。
柔い光の行灯が壁の上部に連なり、枯れた落ち葉が、時々地面に落ちてくる。何やら底冷えしてしまいそうな廊下である。
私は随分久しいなと思った。
「……もう……遅い。武とは一度は会ってみたかったな……」
乙姫はそれだけ言うと、四季から切り取られた窓から、遥か彼方の海の向こうを見つめた。乙姫の瞳には遠い遠い海の最果てに、武の姿があるのだろう。
いずれ、決断をしたことに後悔をするのだろうが、今は雌雄を決して準備に取り掛からなければならないのだ。
どちらの星の生命が生き残るのか? それが今の唯一の問題であった。
自室で乙姫である影武者の彼女と私が話すことは、何百年ぶりかとも考えているのだろう。だが、片付けないといけない事柄は幾つもあるのだ。
乙姫の自室は、昔と何ら変わっていなかった。
壁には温水や冷水が入り乱れて流れ落ち。所々、調度品である色とりどりの珊瑚が飾られている。壁面には水が撥ねる絵画があり、うら若い少年たちがこちらにお辞儀をしていた。
私は乙姫の前に立った。
「久しいな……」
「お久しぶりにでございます」