第114話 才女リンエイン

文字数 1,059文字

 南龍の巨体がひしゃげ。西龍の首が幾つか潰れ、東龍と北龍が遥か後方へと吹っ飛ぶ。

「見えた!」

 超巨大な龍のメが一瞬だが、俺には見えたような気がした。
 刀を振りかぶった。
  龍のメは意外と簡単だった。
 人間でいうところの正中線のある場所。
 その中央の針のような細い線を俺は瞬間的に見出したんだ。

 超巨大な龍は咆哮を上げ暴れる寸前。血潮振り撒き凄まじいまでの赤い豪雨を降らせた。綺麗に真っ二つとなった龍は海の底へと沈んでいく。周囲の大海は膨大な真っ赤な血の濁流が支配した。
「これが……幻の剣……」
 俺は自分の力に心底震え上がった。
 東龍が人間の姿になって、俺の傍まで泳いで来た。
「やったなー! 武よ! お前は凄いぞ!」
 東龍は震えが止まらない俺の肩を叩いている。
 首を回して辺りを見てみると、全ての龍は魚軍や四海竜王によって、退けられていた。

 しばらく俺は雨の村雲の剣を見つめ。
 震えていた。

 数多の龍の襲撃から少し経って、無事に竜宮城へと戻った俺たちは、東龍と南龍が祝杯にと薄屋へと向うことになった。けれども、その道中。一人の美しい女性に出会った。東龍にリンエインだと紹介されたその女性は、チャイナドレス姿の分厚いメガネを掛けた緑の長髪の人だった。
 辺りはもう薄暗い。
 夜を迎える提灯は軒並みにずらりと並び。仄かな明かりが足元を照らしている。まるで、行き交う人々の顔には、夜の祭りの帰りのような賑やかさが残っていた。
 リンエインはその分厚いメガネで俺をじろじろと無遠慮に見てから、こう告げた。
「ちょっと、こっちへ来て」
「へ?」
「いいから! ねえ、ちょっとだけ!」
 薄屋に行く道とは反対方向の路地裏にある一軒のボロ屋に俺は連れられた。リンエインは俺をボロ屋の中へ招き入れ、ここが自分の家だと言う。
「ねえ、あなたのさっきの技。心気で龍を斬るようよ。つまりは気持ちね」
「……?」
「また龍と戦うことがあれば、きっと、こう思えばいいんだわ。必ず何でも斬れるんだって」
 リンエインは俺の鞘に収まっている雨の村雲の剣を見つめ。
「少し刀身を見てみたいんだけど……」
 その時、東龍もこちらへ歩いて来た。
 玄関先での俺とリンエインの前で、大笑いしている。
「ふふっ、武よ。ここでもモテモテだな。そいつの父親はここ竜宮城の城下町随一の天才軍師で、娘のリンエインも父親と同じく才覚を認められ、魚人を統べる軍師をしていた頃もあるのさ」
  
 軍師……。
 天才……。
 
「天才軍師……この人が……? 心気?」
「そういうこと。ちょっとこれ借りるわね」

 

 
 






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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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