第116話

文字数 755文字

 俺とリンエインが竜王の間へ辿り着くと、そこには魚の頭をした人々が大勢ひしめき合っていた。
 広い間だ。前に俺と東龍が御前試合をした場所で、壁面には冷水や温水が優しく流れ落ち、床には竜宮城は今は春の季節なので、しとしとと桜の花弁が天井から舞っていた。
 玉座で皆の会話に静かに聞き耳を立てている乙姫は、竜王の間の奥に居座り深く考え事をしているようだった。
「父さん?!」
「なんだ……リンエか。とうとうボーイフレンドを連れて来たのか? 父さんは嬉しいぞ」
「違うって、父さん……この人は地球から来た。あの山門 武よ。もう、あの龍族たちを何体もはふっているわ」
「ほお……君が……?」
 漢服を着た皺の多い顔の男だった。
 リンエインをリンエと呼ぶその男が、どうやら父親らしいことがわかったので、俺は居住まいを正して一礼した。
 この人が竜宮城で随一の軍師……。
  
「ねえ、どうやってあの技を生み出したの?」
「幻の剣?」
「そうかー、幻の剣というのか! きっと、奥義中の奥義なんだろうな。なんたって幻の技なんだろ? ちょっとその刀をここで振ってみてくれないか? ほうほう、心気だな。斬れるはずだよ。だが……今のままでは竜王には到底敵わないだろうな」
「え?!」
 俺はリンエインの父親の言葉に驚いた。
「父さん……名前……」
「おお。私はリンチェン。この竜宮城で娘と一緒に軍師をしている。1000年生きているが、君のような若者は初めて見たよ。きっと、リンエの良い夫になるだろう」
「ちょっと、父さん?!」
「いや、俺には……」
 俺はあいつの顔を思い浮かべて苦笑した。
 リンチェンは俺の表情を読み取ったのか、同じく苦笑してゆっくりと頷いた。
「まあ、若い女性と男性の関係はいつも微妙だからな……。取り敢えず私からリンエをお願いしておくよ武君」
 





 
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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