第72話 

文字数 355文字

 影武者は私の煤ぼけた着物姿を見て、「ああ、長い長い時を過ごしました」と言葉が漏れた。
 私は水の撥ねる鏡で外見を見た。
 そこには美しい女性が写っていた。
 中身だけなのだ。
 時の力で捻じれ老けてしまったのは……。

「もう、お戻りになられるので?」
 影武者は不思議がった。
「いや、何も変わっていないのだよ。雌雄も決してもいない。武はいい男だ。だが、本星一つとは到底比べようもないであろう。今はまだ……戻れん……」
「一度は武に出会って、見たかった」
 影武者は涙をこぼした。
 私はとうに枯れたせいで涙がでないが。
 恐らくは、影武者と同じ顔であろう。
「遠いな。もはや年を数えることもできないほどに……」
 私は本星に帰ることを今でも夢見ていた。
 影武者は、今でも浦島太郎のことを想っていた。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み