第117話

文字数 1,145文字

「ああ、そう言えば長老が武君を呼んでいたんだったな。リンエよ。長く足止めしてしまったが、長老のところまで武君を連れてってくれないか? だいぶ話し込んだから大至急だ」
「え、いいけど……。ま、でも、当然でしょうね」
 リンエインと一緒に、俺は魚神の変化の魚の頭をした人々の間を急いで縫って、足元に敷き詰められた桜の花弁を踏みながら奥へと走った。所々に水泡が床から天井まで浮遊していて、天井から落ちる水滴が微かに頭上や服を湿らせている。

 そのせいか、竜王の間はスッキリとした空気の間だった。

 リンエインが長老だと言った魚人は、魚の頭だったが、かなり老けていると俺でもわかるくらいに皺の多い顔だった。背筋を曲げたこじんまりとした体格で、リンチェンと比べると、かなりの時を生きている感じがした。
「武君か……。その節は地球ではお世話になりましたな……」
「あ、いや……」
「姫と四海竜王とも相談したのじゃが、実はな……。ここ竜宮城の住まう惑星を今は地球へと近づけているのじゃよ」
 俺は即座に首を傾げた。
「え、じゃあ。前と同じく?」
「そうじゃ、だが前のようにはならないでしょうや。そして、もう遅い……」
「?」
「水晶宮におわす竜王の狙いは、水淼の龍族が呑み干すための全ての水じゃ。ここ水の惑星以外も例外ではなくてじゃ。しかるに、武君。何故、地球へと竜宮城が攻めなければならなかったのかは、もう知っているじゃろう? それは水の惑星の水の失われた地から水が無くなったからじゃが……。僅か数カ月間の間なのじゃよ。ここ水の惑星の水が全て無くなったのは……。地球から余った水を供給してもらったのじゃが……。これでは、まだ水淼の龍族は水を呑み干し足りないと考えたのじゃよ。そこのリンエインとリンエインの父親がな。まっこと、やっかいではあるのだが、竜王退治に地球の剛の者も協力してもらわねば、恐らくは……そこで、姫はここ竜宮城をまた地球へとお近づけになられたのじゃ」
 俺は合点がいき。身震いするほどの寒気がした。前は竜宮城の接近によって地球は大雨が覆っていた。その原因は前と同じ理由で発生していたんだ。
 要するに、水淼の龍族を束ねる竜王を何とかしないといけないんだな。
 それも後、何カ月かの間に……。
 あいつの顔が、俺の胸をチクリとした。
「地球は大丈夫なのですか?」
「いや、もう遅いのじゃよ」
「え!!」
 疑問に思っているその時、東龍はというと、竜王の間の影の柱に寄り掛かっていた。ここから見ても珍しく無口だった。だけど、何のことはない。そこから俺に右手でジェスチャーを交え、俺に向かってニッと笑って数分後には俺たちは城下町に出ていた。薄屋へと向かって歩いていると、今度はリンエインも交えていた。途中で戦略会議を抜けて来たんだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み