第7話

文字数 1,101文字

 小一時間後。
 話が終わり。
 体育館裏から体育館の入り口付近まで歩いていた麻生と湯築の耳元には、恐らく広い窓からの部活の活動的な音が大きくなりだしたのだろう。同時に走り出す足音も大きくなりだしたはずである。皆、部活では元気なのだ。
 それには理由がるが、後に話そう。
 当然、湯築は男子に人気があったが女子にも人気なのだ。
 湯築の強い勧めで、今の唯一活動している陸上部の部活は女子よりも男子の数が多く。湯築が率先して皆が日常を取り戻そうとしている。
「そう……仕方ないか……」
 湯築はサラッとそう呟くと体育館へと歩いて行った。
 麻生と少しでも仲良くなりたかったのだろうか?
 部活の活性化だけではないのだろうか?
 湯築も武を好いていたのであろう……。
 
 湯築は彗星のごとく現れた転校生だった。ここ鳳翼学園で短期間で陸上県大会二年連続優勝を勝ち取っていた。あの日から、湯築の周りにはいつも体育館での地響きのような足音が響いていた。ここ半年間で不安を払拭してくれる心強い足音である。
「ねえ、まだ部活に来ないの?」
 一人の女子が湯築に不満を漏らしている。
 いつの間にか、湯築の周りには人だかりができていた。
 皆、学校生活と部活だけは少しでも明るくしようと湯築と一緒に努力しているのであった。
「……麻生さんは来ないわ」
 湯築は俯き加減だ。
「もう、麻生さんも武も来ればいいのにねー」
「毎日がデートって、感じでくっ付き過ぎよねー」
「湯築さんでも無理かー」
 皆、女子たちは勝手なことを言っているが、内心はやはり不安なのだから仕方がないのだろう。
 体育館では、時々俯き加減の湯築は、更衣室で体操着に着替え、ふくよかな胸を強調している。その胸は今まで走るときにも自分へ自信をつけてくれていた。
「そう……じゃあ、武はどう?」
 女子たちは、武は来ないかとしつこかったが、湯築にやんわり「来なかったわ」と言われ、皆ふて腐れている。
 中学の頃からだ。
 成長過程で、背が伸びると同時に湯築は急に足が速くなっていた。ある出来事からマラソンやジョギングをし続けていた。その出来事とは、湯築が好きな男子に一度フラれたことだった。
 心に傷ができるほどの失恋を経験したようだ。
 そのために、自分に更に自信を持ちたかったのだろう。
 けれども、運の悪いことに二度目の恋は武だった。
 当然、麻生がいる。
 部活で平和的に麻生と対決をすることで、少しでも武との距離やわだかまりや対抗意識を解消しようともしたかったのだろう。しかし、それも無理なのだろう。
 もうすぐだ。
 日本が沈没するのだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み