第31話

文字数 1,141文字

 湯築が天鳥船丸に泳ぎ着くまでに、高取の落雷が幾度も援護をしていた。二体の龍が湯築のすぐ後ろに迫っていたのだ。
 龍の頭上に数本も落雷は直撃していたが、まったく二体の龍は動じなかった。
「さがって!」
 見かねた地姫が、天鳥船丸の甲板から、轟雷を落とした。
 二体の龍が瞬時に灰塵と化す。
 船へと上る梯子を登っていた湯築は、後ろを向いた。
 武が果敢に一人で戦っている……。
 見事な戦い方を披露していた。
 神鉄の刀で、一体また一体と隙を見出しては、喉元に斬り込み。時には突きをし、確実な殺傷をしている。
 
 ド―ン。
 ド―ン。
 
 ドドン。
 と、凄まじい破裂音のする。まるで昼のように明るい海上には、地姫の轟雷が降り注ぎ、何体もの龍を灰塵にしていた。
 幾つもの虚船丸からの火矢が龍の鱗で弾かれている。
 武は神鉄の刀で龍をただ稽古通りに斬るのではなく。この時、実戦を有効に戦うことができるようになったようだ。
 荒れ狂う龍に、荒れ狂う海とには、二人の巫女も血潮をまき散らし美しく舞っていた。


「これから、どうなるの? 私たちは今まで必死にやって来たというのに……蓮姫さんたちは、私たちにこれ以上もっと強くなれというのかしら? 私、これから先。怖くて不安で仕方がないのよ」    
 再び暗雲に覆われてしまった海である。
 湯築は天鳥船丸の甲板で、刀の血振りをした武に、鬼姫たちが船室へ戻ると同時に、不安や恐れを含んだ声音を零していた。
 湯築が持っていた神鉄の槍は、すぐに大人の男たちが網で引き上げたようだ。  
 それにしても鬼姫たちの実力は並大抵ではなく。想像を遥かに上回っていたのであるが。恐らく、私の見立てでは、湯築と高取はまだ修行次第では、更に強くなれるはずだ。
「そうだわ。必死にやってきた。これ以上って、ないわ。無茶よ」
 高取は俯いて悔しそうに歯を食いしばっていた。その目は悔し涙も含んでいるのだろうか?
 だが、武はそんな二人を応援してくれていた。
「いや……。せっかくここまできたんだ……。湯築も高取も考え方をもっと柔軟に」

 武は勝つ方法は幾らでもあるんだと言いだした。

「この先。修練はまだまだあるんだし。鬼姫さんの奥義や蓮姫さんの神出鬼没さも。地姫さんの不思議な凄さも。まだまだ奥が深いんだよ。例えば学校の微積分と同じさ。微積分がない時代の人たちが一生かかって解いた問題でも。今の時代はあっという間に解けるんだし、大丈夫さ。考え方や勉強の仕方を学べば方法は幾らでもあるはずさ。一度、基本に戻ろう。まだ、鬼姫さんたちから戦い方を全て教えてもらったわけじゃないんだしさ」

 武のいつのも口調に、湯築と高取は唖然としていた。

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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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