第113話

文字数 1,282文字

 落雷を発し、龍を焼き払う。
 後方を見ると、魚軍の大軍は確かに殊の外優秀だった。砂浜へ近づく龍をものの数秒でモリで数体も退治していた。 
 前方は龍尾返しで二十平方メートルの範囲の大穴を空ける。
 四方からの接近した龍は刀で斬り。
 遠方は落雷にと、俺は快進撃をしていた。

 ……

「な……!」
 その巨大な龍がでてきたのは、俺の汗が疲れで滝のように滴り落ちてからだ。南龍よりも遥かに大きく山よりも巨大な龍が北の海の方から迫って来ていた。
 東龍もそれに気が付いて、俺の方へと目配せをし海面のとある方を向いた。
 東龍が向いたその海を見ると、人一人分が入れる渦潮が発生していた。
 俺は頷いて、渦潮へと身を投じた。

 目を開けると、海の景色が一変し、知っている魚が泳いでいた。渦潮から泳いで海面に浮上すると、目の前には、存在しないはずの神社があった。俺は鬼姫さんの元へと海の上を大急ぎで走っていく。
 鬼姫さんから、また新しい幻の剣を習得するために、俺は広すぎる神社の廊下や部屋を探し続けた。どこにいるのかと、しばらく歩き回ると、やっと、焦っている俺を見つけた蓮姫さんに居場所を聞けた。
 鬼姫さんはあいつと厨房にいると聞いて、廊下から大きな台所を探した。台所に入れる大扉を見つけだし中へと入ると、今は昼時だからか。至る所から美味しそうな湯気の立つ台所は、彩りのある和食を作るための包丁やらまな板やら、釜土に水桶などが所狭しとあった。奥の厨房から鬼姫さんとあいつの声が聞こえて来た。
 俺は厨房を覗くと、そこであいつが鬼姫さんに料理を教えている真っ最中に出くわした。
「はっ、武様! いつ頃お戻りになりましたか?! 御無事で何より!」
「武! ……凄く元気で……良かったね」
 あいつと鬼姫さんが俺の方を同時に向いた。だけど、二人とも首だけで、トントンと包丁の音が鳴り響いていた。魚をメインにした料理は進行中だった。

 あいつは包丁を握り、鬼姫さんが抑えた魚の頭を天辺から包丁一本で綺麗に真っ二つにするという大技を披露した。

 俺はピンと来た。

「鬼姫さん。それ幻の剣にもありますか?」
「へ? ええ。ありますよ。幻の剣 二の太刀。蕪割り《かぶわり》といいます。龍を頭から尾まで真っ二つに割る幻の技です。龍にも魚と同じくメがあるんです」
 鬼姫さんの声を聞くやいなや、俺は「ありがとう!」とお礼を叫び元来た廊下を駆けだした。
「武! 頑張ってね! 応援してるから! いつまでもね!」
 俺の耳にあいつの弾む声が追いかけてきた。
 俺はもう鬼姫さんから幻の剣を教えてもらったも同然だった。
元来たところへ渦潮がまた発生していた。
 俺は迷わずに入ると、数秒で違う海へと浮かんでいた。

 天空が暗闇に覆われている。エベレスト山のような大きさがそのまま動いているかのようだ。四海竜王が超巨大なその龍にそれぞれ体当たりをしている。けれど、まったくと言っていいほど動じていない。
 俺は幻の剣を習得するべく。刀の切っ先に気を集中した。
 一振りで龍のメを狙わなければならない。

 まずは、メを見つけないと……。
 龍のメ……どこだ……。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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