第77話

文字数 784文字

 湯築は斬られた槍を持ちながら呼吸を整えている。大量の汗が湯築の身体から流れ落ちているが、鬼姫と蓮姫も同じであった。

 しばらく、皆の荒い呼吸だけが、フロアに響く。

 勝敗は練習なので関係はないが。ほとんど互角と言っていいだろう。

「よくもまあ、ここまでこれたね」
 蓮姫は感心し、鬼姫の方を見た。
「ええ、いざという時の勝負ではわかりませんが……。練習では、勝敗は決まりませんでしたね。湯築さんも高取さんもよく頑張りました」
 鬼姫は初めて二人に微笑んだ。

 蓮姫も鬼姫も、もう教えることはないと言った。
 後は、それぞれ基礎のおさらいとなった。
 「ところで……これから、皆でタケルと稽古の日々を過ごす夢を見たわ……しかも、これからずっとなの……」
 高取が真顔で不思議なことを言った。
 
 高取の夢はある意味的中した。
 武自身の心と身体の気を高めるためだと光姫が言ったのだ。
 そのためには、稽古がどうしても必要だった。

 武自身はどうであろう?
 心情を察すると、やはり複雑なのは十二分にわかるのであるが、これも麻生と世界のためである。

 光姫の提案で、皆、朝と昼と夜もタケルとの稽古をするようになった。

 今日の武は自室で修練もせずに一人でいた。眉間に皺が寄るほど真剣な顔をし、椅子に座ってる。誰も部屋に来ないでくれともいい。時折、溜息を吐いていた。

 武自身はタケルになることがいいことのだろうか……?
恐らく、武にとっては強くなることが喜ばしいことでもあるだろう。けれども、武には麻生がいるのだ。

 これからのタケルとの関係で、自分が変わりそうで怖いのだろう。
 いやはや、一途な心の主には厳しい試練であった。

 だが、そんな時に見かねた光姫が、タケル様と親睦を高めていればそれでいい。何もしないで一緒に稽古をしているだけでいい。とも言われた。

 武にとって、それは救い以外のなにものでもなかった。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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