第13話

文字数 1,046文字

「おれと同じような年恰好の黒の長髪の女はここにいますか? 名前は麻生 弥生っていうんだけど」
 武の必死さに鬼姫は即座に首を振った。
「え!」
 武は立ち上がろうとしたが、足と腕を怪我していた。
 廊下から複数の巫女が昼餉の準備も忘れて、こちらを覗いていた。
「大丈夫ですか? 後生ですから、しっかり寝ていてください」
 武はそれでも、立ち上がろうとするので、鬼姫は慌てたようだ。
「麻生さんなら無事よ! 大丈夫?!」
 高取である。
 高取は廊下から巫女たちの間から武の布団まで駆け付けた。
 きっと、ここへ来てから武の麻生を想う心情を察していたのであろう。
 武は高取の巫女姿を見ても、再度立ち上がろうとした。その拍子に腕から鮮血を上げた。
 すぐさま鬼姫は、高取と共に武を押さえつけ、薬箱を用意した。

 武は武道の達人だったが、鬼姫という巫女は不思議と武と同じくらいの年なのだが、あっという間に武を元の布団の中に落ち着かせた。
「君は?」
 武は驚きの眼差しをしたようだ。
 武にとっては、師匠の一人である麻生の父よりも強い人を初めて見たのだろう。
 それもそのはず。この巫女の社で鬼神を祭る鬼姫は一番強いのだ。
 
「落ち着いて聞いてね。あの後、麻生さんと卓登と吹雪は、みんなの家族たちと一緒に学園内にとどまっているの。何故なら危険だったから……なの……そう、ここは危険な場所……龍神を鎮めることや、時には戦う場所なの。そう、母から聞いたわ」
 高取は少し俯きがちだが、武をなんとか落ち着かせようと努力をしてくれていた。
 そう、この神社は遥か昔から竜宮城と深く関わる不思議な神社であった。勿論、龍神を祭り、また鎮めてもいた。雨も降らず。歴史も関係ない。
「あの龍は?」
 武にその深い傷を負わしたのは、数多の龍であった。
「たんに麻生さんを庇った時に、気を失ったからわからなかった。安心して。あの後、龍から逃げながら私たちは救命具を付けて、渦潮に入ったの。命からがらね……」
「救命具? 渦潮?」
「ええ。渦潮には、空間転移をすることができる不思議な力があるわ。そのことも私の母から聞いたの」
 高取は、武の寝ている布団の横に、ボロボロとなった救命具を指差しながら、淡々と説明している。やはり、不思議な女である。
「武の分は、私が付けた。それに、海に落とすのが大変だった。ちょっとは、軽くなる努力をしてほしい。それと、今では怪我を治すことに専念した方がいいわ。ゆっくり休んでね」
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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