第104話

文字数 999文字

 日本の北海道付近 10月21日 午前11時30分。

「それで結果は惨敗でしたか……」
「ええ。鬼姫さん。だから……また稽古をお願いします」
 俺は朱色の間で畳に両手を着いて頭を下げた。
 鬼姫さんは、相変わらず可愛い。
 外には、生い茂る葉。川のせせらぎ。風の音に応える木々の揺らぎがあって、俺は帰って来たんだな。と思った。
「将を射んとする者はまず馬を射よ。です。武様」
「え?」
 俺は一瞬だけど鬼姫さんが、何を言っているのかわからなかった。
 鬼姫さんは、そんな俺にニッコリと笑った。
 廊下では蓮姫さんと地姫さんがこちらを、いや、俺の怪我を見つめていた。
「幻の技があります。(げん)(けん)というのですが。その技の中で龍尾返しという技があります。それを今から教えますね。武様。今日から泊まっていってくださいね」
 
 チュンチュンと雀が鳴く空の下。
 俺は僅かに鬼姫さんが二タリと笑んだのを見逃さなかった……。 

深夜。

 朱色の間で俺はふと目を覚ました。布団にくるまって感覚を研ぎ澄ますと、息を殺して鬼姫さんが音もなく歩いているのを察知した。研ぎ澄まされた感覚で、鳥も人も陽も寝静まった夜。青々と茂る森林からもフクロウの鳴き声が微かに聞こえる。
 鬼姫さんは、俺のいる部屋へスッと入ると、素早く布団に潜りこんだ。

 持参の枕と共に……。

 でも、これからの俺のきっと厳しい稽古の前には、丁度いい癒される感じの……懐かしい鬼姫さんからの香りと温もりだった。

 次の日だ。

 大広間で、俺は隅っこで朝食を食べていた。俺の知る限り。四海竜王たちと戦った武士さんたちや巫女さんたちは、この時期にはみんなそれぞれの国に帰るんだって。
 今の大広間には、数人の巫女さん。鬼姫さん、蓮姫さん、地姫さん、光姫さんしかいない。光姫さんは更なる日本の危機だと言って、高取家からここ存在しないはずの神社まで遥々歩いて来てくれた。
 俺は黙々と食べていると、水の惑星からヤマトタケルとなり渦潮を使ったことを考えた。なんだ帰って来れるんだ。地球に……。簡単だったな。水の惑星は今も当然、四海竜王たちが戦っている。あいつ……麻生には会いたいけど、今はまだ無理かな……悪いな……麻生……。
 地球はやはり繭のような厚い雲によって覆われ、雨こそ降らないのけど、いずれ水海と化すと光姫さんが言っていた。

 ここまでしたんだ。俺は水の惑星を救う決意をした。
 当然、あいつのためだ。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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