第12話 晴れた地

文字数 800文字

 日光に照らされサラサラとした海である。ここが、日本のどこかは私も知らない。だが、不思議な場所というよりは、皆知らないだけなのだろう。飛び魚が至る所で跳ね上がり、救命具を付けた一人の男が海に浮かんでいた。
 空は晴れ渡り、遥か向こうに社がある。

 その神社の名はない。
 遥か昔から日本中から巫女が足を運ぶ社。

 一人の巫女が海の水に手を入れ小魚と戯れていた。年は武と同じであろう。あるいは幾つか下のようでもある。とても可愛いらしい容姿で、黒い長い髪の良く似合った巫女である。名を鬼姫(きき)という。
 そして、鬼姫は遥か向こうの海に浮かぶ救命具を付けた男に気が付いた。
「まさか……」
 鬼姫は、そう独り言を呟いた。

 数刻後

 ここは、神社の最奥。
 朱色の間。
 晴れ渡った空の下。巫女たちが廊下を昼餉の準備に忙しそうに行き来していた。今は昼時で、12時を少し回った頃である。
「その男は?」
 一人の年上の巫女が鬼姫に聞いた。名を蓮姫(れんき)という。海神を祭る巫女である。茶色い長い髪で、背が高い。美しい顔だが、切れ長の目はやや鋭い。
「はい。海に浮かんでおりました」
「へえ……あっちの方?」
「きっとそうだと思います」
 鬼姫は慌てて首を縦に振った。
 布団で寝ている男は、さっきまで救命具を付けていた山門 武であった。

 何故か巫女姿の高取 里奈は幾つもある朱色の間の一つまで足早に歩いていた。
 途中、湯築も朱色の間の一つに布団で寝ているのをしり目に、真っ先に武のいる場所へ向かっていた。
 
 何やら武は起き出して、周りを探していた。
 そう、麻生を探しているのであろう。
「御目覚めましたか?」
「君は?」
「鬼姫という名です」
 武は再度、周囲を見まわしてから驚いていた。
 ここから見ても、武は真っ青だ。
 きっと、心配しているのだろう。
 決して怪我のせいではなかったのだろう。
 恐らく、麻生は無事なのだから……杞憂に終わるが……。

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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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