第91話

文字数 805文字

 おや、私は気が付いた。
 さすが、地姫も気が付いたようである。
 このままでは……。

「タケル様は、左の手首。左胸のあばら骨。そして、左肩を複雑に骨折していますね。このままでは四海竜王には勝てないでしょう。ですから、これから私は全力でタケル様に助太刀をします」
 そう。タケルは北龍の渾身の体当たりによって、大怪我をしていたのだ。 
 けれども、地姫の加勢と雨の村雲の剣を片手で振るえば、恐らくは……。
「わかった。では、地姫とやら。頼む!」
 タケルは東龍と北龍に再び向き合った。甲板から飛翔し、地姫も広大な暗雲を天に発生させた。

 白き雲もない。大海原を、その巨大な暗雲が覆う。
 大海原の周囲を見ると、武たちの仲間が皆騒いでいた。
 高取は空に向かって、喜び勇んだ。
「地姫さん! 私も負けてられない!」
 高取は歯を食いしばって、地姫までとは言えないが、大きな暗雲を天に分散して発生させる。湯築と蓮姫はお互い頷き合うと、的確に龍の急所を貫いていった。
 本気になった鬼姫の居合いのツバメ返しは、幾度も龍を両断し。
 光姫は竜巻と雹の嵐を自在に操り、龍にとってはこれ以上ない脅威であろう。
 おや、虚船丸の約千もの武士と巫女にも強力な加勢が来たようだ。
 自衛隊である。
 遥か遠くから数多の空母が見え、無数の戦闘機が飛んでくる。

「ハッ!」
 タケルはまずは東龍の首を狙った。剣に宿る気を放つと同時に、雨の村雲の剣で東龍の恐ろしく硬い鱗を斬り裂いた。
 雨の村雲の剣の切れ味を知りたかったのだろう。
 ところが、東龍もである。
 とてつもない咆哮が辺りに鳴り響いた。
 雨の村雲の剣は想像を遥かに超えている切れ味だったのだ。そのため東龍の胸元には真っ赤な肉にスッキリとした大きな切断面が見える。
 致命傷を負った東龍の大口がタケルに迫った。
 その時、東龍の頭上に三つの轟雷が束になって降り注いだ。
 東龍はその直撃からくる強い衝撃で、もんどりうった。
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登場人物紹介

山門 武。

麻生の幼馴染で文武両道だが、どこかしら抜けている。

「俺、変わらないから。そう……いつまでも……」

麻生 弥生。

武の幼馴染で学園トップの美少女。

「私は武と誰もいないところへ行きたい……例え、日本を捨てても……」

高取 里奈。

タロットカード占いが大人顔負けの的中率の不思議な女。

「明後日には辿り着いているわ。その存在しないはずの神社に」

武に世界を救うという使命を告げる。

湯築 沙羅。

運動神経抜群で陸上県大会二年連続優勝者。

過去に辛い失恋の経験があるが、二番目の恋は武だった。


鬼姫。

鬼神を祀る巫女。剣術、気、ともに最強。

蓮姫。

海神を祀る巫女。神出鬼没な槍技の使い手。

地姫。

白蛇を祀る巫女。雷や口寄せなど随一の不思議な力を持っている。

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