132.キース対オルザドーク

文字数 1,467文字

 鋭く尖ったゾンビの舌がオルザドークの血まみれの服をかすめる。後ろから別のゾンビが肩に手をかけてきた。


 「触るな。汚れる」


 蹴倒し、邪魔になるので蹴り上げる。それを横から殴りかかってきたゾンビにくれてやる。しかし、ゾンビの数が減るわけではない。さすがに胸に弾を食らっては、息がしづらい。

 「もう疲れたのか大魔術師オルザドークともあろうお方が? 本気で来いよ」


 金髪を束ねた悪魔キースは、空から高みの見物だ。


 「今日は久々に燃えるな。悪魔に本気で来いと呼ばれたのは初めてだ。ジークまで本気を出すつもりはなかったが」


 「そんなの初めから無理だよ」


 キースが歌い出しそうな声を出して喜ぶ。だが、そんな余裕は今に見れなくなるだろう。異様な空気を感じ取ったようだ。キースと、ゾンビ達が距離を置き始めた。殺気に気づいたのだろう。殺気は、流れ落ちる血を伝い、蒸気となり、空気を満たす。常人には耐え難い血の臭いのはずだ。悪魔でさえ、身を引くのだから。


 「天と地の神よ。我は争う者、然り流血の公。今、神の許しを請う。我が血を以って壁を成し、再生の時を」


 言葉の波に乗って、渦巻き始める赤い霧。


 「何を企んでるか知らないけど、させるか!」


 銃弾が、何発も飛んできたがよけない。よける必要がないからだ。全て渦に飲まれ、空に吐き出される。次第に胸の傷口も塞がる。これで息がしやすくなった。キースが目を見開いている。

 「あんた。何で今までその術、使わなかったんだ」


 今頃力の差に気づいたか。秘薬を使ったところで、勝てるとは限らない。秘薬は一族に存在しなかった寿命を決めるため、与えるための薬だ。


 「呪文を唱えるだけが魔術師じゃないからな。相手の出方を見るのも戦法だ」

 キースは面白くなさそうに銃を担ぐ。


 「冷静だね。コステットがいなくなったわりに」


 「バカが。正直足手まといだったんだよ。不死身同士の戦いだ。長引けばあいつらが先にやられるのは分かってる。でもな、あいつには俺の全てを叩き込んだつもりだ。足止めを食らうことはあっても、ジークだけは必ず倒すって俺には分かる」


 どこから出てきた言葉なのか自分でも分からないが、自信を持って言える。特に見込んだわけでもないが、バレの熱意はいつも感じていた。ただ、焦って問題を起こすトラブルメーカーなだけだ。復讐心に囚われなければ、きっと悪魔でも魔王にでも勝てる。


 「面白いこと言うね。だけど、あんたはここでくたばるんだよ!」


 簡単に憤る悪魔ほど頭が悪い。弾が飛んできたが血の霧が遮るのを忘れたか? 違う、合図か。ゾンビに集団でかかれと命令したのだ。悪いが回復した今、敵はいない。集団で来ようが、赤い霧の中に巻き込めば体が裂ける。ゾンビ達が次々に倒れる。霧をまとい、ゾンビは無視して空を目指す。


 「イークロスト」


 本来は風の刃を生み出す呪文だが、それに乗れば空を飛べる。一秒もかからずキースの面前に杖が届く距離に着く。

 「銃はもう効かないしな」


 お手上げと、キースは手を上げるが、嘘臭い。このまま杖で殴ってやろうか。

 「って、信じてくれてないな。勿論嘘だよ」


 殴りかけたとき、ものすごい力が杖を押しのけた。一気に地上に落ちる。着地を決めたが、数メートル滑った。キースの銃が消えた。その代わり刃先まで黒い長剣が握られている。


 「武器は銃じゃなかったのか?」

 空からキースが降りてくる。銃で遠くから狙う方が効率がよさそうだが。


 「魔剣、ディヴン。こいつは銃としても使えるすぐれもの。本来の姿は剣だから、こっちの方が強いんだ」
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