118.協力
文字数 1,361文字
「何で来たんだよ」
迷惑そうにうめくレイドだが、口の端がほころんでいる。こんな表情は初めて見た。
「あなたが弱すぎるからよ」
「なっ!」
あまり感情を表に出さないレイドが、眉を引きつらせて、歯を鳴らす様も見ていておかしい。
「あれがお兄ちゃんのお母さん? きれいだね」と、アグル。
同感する。要姫は美女だ。レイドは頬を赤らめそっぽを向く。こういうやりとりを完全無視する要姫は相変わらずだ。
「ジェルダン王。あなたと決着をつけるときが来たようね」鉄製の扇子を広げる。サファイアでできている青い竜の絵柄が入っている。
「どうやってここに来た?」
彼女の登場に一番驚いていたのはジェルダン王だろう。レイドを助けに来たとはいえ、ここは地獄なのだ。それもジェルダン王とは因縁の仲だ。
「簡単なことよ。魔界に入って影に飛び込むだけじゃない」
ゲリーから逃げている最中に落ちた床が影なのだろうか。
ジェルダン王は関心した様子で笑った。
「なるほど。また水晶で影の出現時間を見計らっていたか」
「水晶?」
レイドに聞いてみた。要姫もオルザドークと似て、とっつきにくい。いや、この謎も解ける。レイドの伯父がオルザドークで、レイドの母は要姫。みんな親戚だ。それも、とことん性格似の。
「魔法の水晶だ。母さんの部屋にある。あれは何でも見たいものを見ることができる」
道理でこの女性は神出鬼没なのだ。
「あなた達。早く行きなさい。上に行くのよ。どこかに階段があるわ」
階段なんてあっただろうか? 落ちてきたときには見えなかった。
「あなたは?」
心配される筋合いはないと言う冷たい目つき。この目が懐かしい。レイドとオルザドークによく似ている。
「私はこいつを倒す。いいからさっさと行きなさい」
お言葉に甘えることにした。ジェルダン王との対決を邪魔してはいけない。頷いて、レイドとアグルと共に、階段を目指した。
「逃がすものか!」
「行かせないわ」
背後で水と血の化け物のぶつかり合う音が聞こえた。岩肌の道は全力で駆けると、何度もつまずきそうになる。すぐ耳元で悲鳴が聞こえる。見えない人間がそこにいるようだ。
「何かいるよ!」
アグルが悲鳴に混じって叫ぶ。
「気にするな。手出しはしないだろう」
レイドの感は信用できそうだ。悲鳴はすれど、人影はない。おそらくここが地獄だからだろうか。寧ろ、生者に助けを求めているようだ。それらを突っ切って岩山の脇を通り過ぎる。
もう要姫の見えないところまで来た。階段は見つからない。しかも行き止まりだ。炎のカーテンが行く手を阻んでいる。火の海だ。赤茶けた土から、途切れることなく炎が立ち上っている。
「あんたら、止まりな」
炎の向こうから聞き覚えがある声がする。炎をものともせずに女が歩いてきた。金属のアクセサリーも服も焼けていない。赤紫の短髪が炎のベールをくぐり抜ける。
「ベザン?」
間違いない。ジークの傍らで控えているのを何度も見ている。その後ろにぞろぞろと続く影がある。巨大な昆虫類だ。蝶、カマキリ、ムカデ、クモ。尋常な大きさではない。魔物か。ベザンの二倍近い大きさだ。それが飛びかかってきた。
「そっちをお願い」
レイドと背中合わせになる。
「分かった。しくじるなよ」
「僕もやるよ」アグルが胸を張る。
迷惑そうにうめくレイドだが、口の端がほころんでいる。こんな表情は初めて見た。
「あなたが弱すぎるからよ」
「なっ!」
あまり感情を表に出さないレイドが、眉を引きつらせて、歯を鳴らす様も見ていておかしい。
「あれがお兄ちゃんのお母さん? きれいだね」と、アグル。
同感する。要姫は美女だ。レイドは頬を赤らめそっぽを向く。こういうやりとりを完全無視する要姫は相変わらずだ。
「ジェルダン王。あなたと決着をつけるときが来たようね」鉄製の扇子を広げる。サファイアでできている青い竜の絵柄が入っている。
「どうやってここに来た?」
彼女の登場に一番驚いていたのはジェルダン王だろう。レイドを助けに来たとはいえ、ここは地獄なのだ。それもジェルダン王とは因縁の仲だ。
「簡単なことよ。魔界に入って影に飛び込むだけじゃない」
ゲリーから逃げている最中に落ちた床が影なのだろうか。
ジェルダン王は関心した様子で笑った。
「なるほど。また水晶で影の出現時間を見計らっていたか」
「水晶?」
レイドに聞いてみた。要姫もオルザドークと似て、とっつきにくい。いや、この謎も解ける。レイドの伯父がオルザドークで、レイドの母は要姫。みんな親戚だ。それも、とことん性格似の。
「魔法の水晶だ。母さんの部屋にある。あれは何でも見たいものを見ることができる」
道理でこの女性は神出鬼没なのだ。
「あなた達。早く行きなさい。上に行くのよ。どこかに階段があるわ」
階段なんてあっただろうか? 落ちてきたときには見えなかった。
「あなたは?」
心配される筋合いはないと言う冷たい目つき。この目が懐かしい。レイドとオルザドークによく似ている。
「私はこいつを倒す。いいからさっさと行きなさい」
お言葉に甘えることにした。ジェルダン王との対決を邪魔してはいけない。頷いて、レイドとアグルと共に、階段を目指した。
「逃がすものか!」
「行かせないわ」
背後で水と血の化け物のぶつかり合う音が聞こえた。岩肌の道は全力で駆けると、何度もつまずきそうになる。すぐ耳元で悲鳴が聞こえる。見えない人間がそこにいるようだ。
「何かいるよ!」
アグルが悲鳴に混じって叫ぶ。
「気にするな。手出しはしないだろう」
レイドの感は信用できそうだ。悲鳴はすれど、人影はない。おそらくここが地獄だからだろうか。寧ろ、生者に助けを求めているようだ。それらを突っ切って岩山の脇を通り過ぎる。
もう要姫の見えないところまで来た。階段は見つからない。しかも行き止まりだ。炎のカーテンが行く手を阻んでいる。火の海だ。赤茶けた土から、途切れることなく炎が立ち上っている。
「あんたら、止まりな」
炎の向こうから聞き覚えがある声がする。炎をものともせずに女が歩いてきた。金属のアクセサリーも服も焼けていない。赤紫の短髪が炎のベールをくぐり抜ける。
「ベザン?」
間違いない。ジークの傍らで控えているのを何度も見ている。その後ろにぞろぞろと続く影がある。巨大な昆虫類だ。蝶、カマキリ、ムカデ、クモ。尋常な大きさではない。魔物か。ベザンの二倍近い大きさだ。それが飛びかかってきた。
「そっちをお願い」
レイドと背中合わせになる。
「分かった。しくじるなよ」
「僕もやるよ」アグルが胸を張る。