82.重大発表
文字数 1,496文字
「よし治っただろ?」
これで大丈夫だと、チャスが補足する。オルザドークが面倒臭そうに治療の術を施してくれたので、失敗するのではないかと不安になったが、傷跡も残っていない。これは礼を言わなければ。
「ほっといてやってくれ。眠ってる」
いつの間にかオルザドークは眠っている。
「呪文は疲れるんだ。ジークとの戦いに備えないといけないからな」
ジークのライブまで後数時間だ。雷が鳴りが止んで、昼を過ぎた。しかし魔界は夜より昼の方が静かだ。町中の騒がしい音楽が秩序を乱している。
夕方には、今いるこのリデルの小屋を出る。ただ、それまで時間を潰す方法に困っていた。
呪文の復習をしたり、覚えていなかった呪文は一通り覚えた。術を教えてもらいたいけど、術は規模が大きくなりがちで、目立ちすぎるだろう。
(早く倒したい)
気が急くばかりで落ち着かない。
「ライブ前からそわそわしてたら上手くいかないぞ」
チャスにだけは気づかれたくなかった。と言っても、心が読めるのだから仕方がないか。
「リデルに飲み物でも頼むか? 魔界にも果物ジュースぐらいあるだろう」
悪いけどそんな気分ではなかった。何かしなければいけない。残りわずかな命を無駄にしないためにも早く。リデルのいるキッチンで声がした。
(こんにちは)
振り向いた瞬間、身体が、喉が硬直した。何故、ここに? 発しかけたその言葉は、何故か言葉にならなかった。
「じゃ、俺がジュース入れてきてやる」
チャスが気づいていない。見えないのか? 声が聞こえなかったのか? オルザドークが眠っているのは仕方がない。でも、リデルも?
黒いシルクハットを深くかぶり直して、黒と白の肌の男が歩み寄ってくる。指を一本立てて、静かにというそぶりをする。
(僕に用があるのか)
バロピエロは微笑んで頷く。声に出さなくても伝わっている。チャスよりも上手か。
(重大発表があるようですよ)
敵に引けを取らないように、睨み返す。
(へー。一体どんな?)
(会いたいんでしょ? 彼に。広場に来るらしいですよ)
反射的に立ち上がった。ライブなんて待っていられないと、胸の高鳴りが告げている。
(罠か?)
バロピエロは微笑んだままだ。はっきりしないところが気にいらない。
(私は伝えに来ただけです。少しでも、君の命を無駄にしないようにと思いまして)
怒りはぐっと堪えた。また呪われてはたまらない。
(用件は?)
(特にないですよ。私は自分の意思で動いただけ。ジークも私がここに来ていることは知らないでしょう)
(どういうことだ?)
つい心で思ってしまったので、バロピエロにも聞こえていた。
(ゲームですよ。私と君の。私は君をこれでも応援しているんですよ。私は常に中立。そのことはおそらくジークも知っているはずなのですが、どうにも彼は私を、こき使うところがありますから。私も困っているんですよ)
バロピエロ自身の意思で僕に肩入れしようというのか。
(なので、ジークより先手を打ちました。もう不意打ちなんてあいたくないでしょう? ならばこちらから乗り込むのです)
返答に困っているバロピエロがいないことに気づいた。確かにいたはずなのに。気配もなく消えた。
ジュースを運んできたチャスにちょっと風に当たってくると嘘をついて飛び出た。もっとましな嘘をつけばよかった。ここで、ぐっと感情は押し殺した。幸いオルザドークに教わった心を無にする無魔 の術を悪用してしまった。
といっても成功はしていないので、きっとチャスならおかしいなと気づくはず。しばらく時間を稼げればそれでいい。様子を見に行くだけなのだから。
これで大丈夫だと、チャスが補足する。オルザドークが面倒臭そうに治療の術を施してくれたので、失敗するのではないかと不安になったが、傷跡も残っていない。これは礼を言わなければ。
「ほっといてやってくれ。眠ってる」
いつの間にかオルザドークは眠っている。
「呪文は疲れるんだ。ジークとの戦いに備えないといけないからな」
ジークのライブまで後数時間だ。雷が鳴りが止んで、昼を過ぎた。しかし魔界は夜より昼の方が静かだ。町中の騒がしい音楽が秩序を乱している。
夕方には、今いるこのリデルの小屋を出る。ただ、それまで時間を潰す方法に困っていた。
呪文の復習をしたり、覚えていなかった呪文は一通り覚えた。術を教えてもらいたいけど、術は規模が大きくなりがちで、目立ちすぎるだろう。
(早く倒したい)
気が急くばかりで落ち着かない。
「ライブ前からそわそわしてたら上手くいかないぞ」
チャスにだけは気づかれたくなかった。と言っても、心が読めるのだから仕方がないか。
「リデルに飲み物でも頼むか? 魔界にも果物ジュースぐらいあるだろう」
悪いけどそんな気分ではなかった。何かしなければいけない。残りわずかな命を無駄にしないためにも早く。リデルのいるキッチンで声がした。
(こんにちは)
振り向いた瞬間、身体が、喉が硬直した。何故、ここに? 発しかけたその言葉は、何故か言葉にならなかった。
「じゃ、俺がジュース入れてきてやる」
チャスが気づいていない。見えないのか? 声が聞こえなかったのか? オルザドークが眠っているのは仕方がない。でも、リデルも?
黒いシルクハットを深くかぶり直して、黒と白の肌の男が歩み寄ってくる。指を一本立てて、静かにというそぶりをする。
(僕に用があるのか)
バロピエロは微笑んで頷く。声に出さなくても伝わっている。チャスよりも上手か。
(重大発表があるようですよ)
敵に引けを取らないように、睨み返す。
(へー。一体どんな?)
(会いたいんでしょ? 彼に。広場に来るらしいですよ)
反射的に立ち上がった。ライブなんて待っていられないと、胸の高鳴りが告げている。
(罠か?)
バロピエロは微笑んだままだ。はっきりしないところが気にいらない。
(私は伝えに来ただけです。少しでも、君の命を無駄にしないようにと思いまして)
怒りはぐっと堪えた。また呪われてはたまらない。
(用件は?)
(特にないですよ。私は自分の意思で動いただけ。ジークも私がここに来ていることは知らないでしょう)
(どういうことだ?)
つい心で思ってしまったので、バロピエロにも聞こえていた。
(ゲームですよ。私と君の。私は君をこれでも応援しているんですよ。私は常に中立。そのことはおそらくジークも知っているはずなのですが、どうにも彼は私を、こき使うところがありますから。私も困っているんですよ)
バロピエロ自身の意思で僕に肩入れしようというのか。
(なので、ジークより先手を打ちました。もう不意打ちなんてあいたくないでしょう? ならばこちらから乗り込むのです)
返答に困っているバロピエロがいないことに気づいた。確かにいたはずなのに。気配もなく消えた。
ジュースを運んできたチャスにちょっと風に当たってくると嘘をついて飛び出た。もっとましな嘘をつけばよかった。ここで、ぐっと感情は押し殺した。幸いオルザドークに教わった心を無にする
といっても成功はしていないので、きっとチャスならおかしいなと気づくはず。しばらく時間を稼げればそれでいい。様子を見に行くだけなのだから。