102.ゾンビ

文字数 927文字

 キースの合図で、一斉に白い生き物が滑ってきた! 軟体の足は、頼りなさそうに見えるが、蛇のようで素早い。それが十人以上で群がる。この近距離で正確な魔法はできない。


 何より、腕にも足にもまとわりつかれては、身動きも難しい。流れに飲まれ、押しつぶされる程の圧迫感だ。オルザドークの杖がただ殴る鈍器となる。


 引っかき、蹴りも放ったが、この生き物は悲鳴一つ上げなかった。まるで痛みを感じていない。白い生き物の血も白かった。血をいくら流しても、這ってでも掴みかかってくる。


 抑えられている腕をねじり、背負い投げて前の奴を転がす。それでも横から二番手が飛び出してくる。


 「ウィズアンクロップ!」


 爪で空気を斬り、そこから風が生まれる。やがて暴風となり、庭の端まで白い生き物を吹き飛ばす。


 「やればできるじゃないか」


 めずらしくオルザドークが褒めてくれた。

 全部は飛んでいかなかったので、残りをオルザドークの杖が、殴りかかる。

 一息ついたが、キースは怪しげに笑っている。


 「終わりじゃないよ」


 生き物を見やると、一体が起き上がった。次いでもう一体。風に斬られて、腕がなくなっていた者は、その残骸を互いに呼び合って、元の体を取り戻した。もう一体、もう一体と、姿を取り戻していく。



 「ゾンビか」



 オルザドークに言われ確信する。緑の肌のイメージからはずれ、目がないのに人の位置が分かるという不気味さがある。


 「生き返れなくしてやる。リエステスファウス!」


 オルザドークは炎の呪文を放った。白い炎はかなり温度が高い。これでは骨も溶けるだろう。

 「させないよ」


 ゾンビの体を水の膜が包んでいる。炎は阻まれ、かき消えた。

 「邪魔しやがって」


 キースが得意げに笑う。

 「火に弱いのは分かってるよ。悪いけど悪魔魔術で守らせてもらってるよ。他の方法を考えるべきだね」


 火が効かないとなれば、他の呪文か? でも風の呪文は効かなかった。オルザドークがいい案を出してくれるといいのだが。



 「お前を先に倒せばいい」



 この作戦は以前やってのけたことがある。だけどゾンビを無視して、キースにたどり着けるのか? あのときの敵は二人だけだった。だが今は違う、少なくとも敵は十人から二十といったところだ。
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