144.依頼料

文字数 1,161文字

 バロピエロに依頼することなど考えてもみなかった。したいとも思わなかった。この奇妙で怪しく、ジークの手先のピエロには、何も頼みごとなどできないと決めつけていた。



 実際は違ったのだ。このピエロは嘘をついたことは一度もないし、ある程度の情報も与えてくれた。ジークの依頼の頻度が多すぎて、こちらが思いこんでしまっていただけだ。こいつは敵だと。



 泣きつくつもりはないが、一種の交渉だ。バロピエロも、こちらの申し出に驚いているが、それを表情から隠そうと、眉間にしわが寄っている。




 「無理です」



 無謀な頼みだったか。いや、無理ということは、依頼を引き受けるか考えた上での判断だろう。話せば分かる男なのだ。


 本当に無理なら、この男は、「何を馬鹿げたことを」とか、 「誰に頼んでいるんです?」とか、色々と、嘲笑うだろう。しかし、率直に答えたのだ。無理というのは、何か不可能なことがあるのだ。


 「どうして?」


 「君には払うものがありません」


 報酬が必要なのか。確かにそれが取引というものだ。ポケットに手を伸ばして金を探るが、そうする前に止められた。



 「勘違いしてますよ。私の場合、お金で依頼料を受け取ったことはありませんよ。そんなものに、本来価値などありませんし、興味もありません」



 「じゃあ、何を」

 「色々ありますよ。主に体の一部ですかね。具体的には、目、口、腕、足、骨などありましたが、君には関係ありませんね。死んで灰になれば、どうしようもありませんし、第一、その程度では額が合いません」


 むごい依頼料だ。かつてこの男に依頼した人間はいるのだろうか? 


 少なくとも、依頼はそれに見合った報酬さえ払えば成立することは分かったが、自分に何が提供できるのか。こうしている間も、血が流れ出している。一刻も早くバロピエロに「引き受けます」と言わせなければ。




 脳に早く動けと働きかける。何かあるはずだ。バロピエロが欲しがるもの。それか、依頼を受けざるを得ない何かが。


 バロピエロの依頼が、根っからの悪意でないと想定する。これまで引き受けてきたのはジークの仕事だけだ。バロピエロが正直者なら、ジークからも報酬を受け取っているはず。



 しかし、思い返したところ、ジークの体は目も口も腕も残っている。魔王は特別扱いか? いや、バロピエロが中立という立場を取るのならば、それは望ましくないことに違いない。もしかして、奪えないのか?




 悪魔はみな、ジークに逆らえない。ゲリーはジークに殺された。一番ジークの近くにいるベザンでさえ、仲間と思われていないと、叫んだ。バロピエロも、一見ジークの味方に見えるけれど、例外ではないかもしれない。




 「ジークから依頼料はもらってないんだろ?」

 バロピエロの顔から血の気が引いた。いつものように表情を色々と作る余裕も消えている。
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