147.ディスと共に

文字数 1,083文字

 直感で分かる。ジークの部屋の竜が見せた過去に登場するディスより、幾らか成長しているように見える。声変わりもしている。そう感じるのは、引きつった頬がときどき痙攣しているせいでもあるが。



 「先に謝らないといけなかったな。辛い目に合わせてすまなかった。もっと早く出てこれたらよかったんだが、一度死んだ俺には、そこまで力が及ばなかった」


 被害を受けていたのは僕だけではなかった。それどころか、悪魔にされたことばかり腹が立って、ディスと自分の関係を否定してばかり。関係ないことはなかったのだ。同じ被害者なのだ。


 「こうなったのは仕方がないよ。僕も自分が悪魔だってことと向き合えなかった。ディスを心の隅では恨んでたと思う」


 初めて話しをすると気まずいものだ。ディスは自嘲ぎみだが、ニヤリと返してきた。


 「お互い様だな。こうなったら、二人で謝り続けてもきりがない。俺の力を貸す。今度は俺の意志もいっしょだ。暴走させたりしない」


 ディスの申し出に驚いただけではない。バロピエロに感謝した。あの男のできることがこれほどすごいとは思わなかった。


 「ありがとう。いっしょに戦ってくれるの?」

 するとディスは首を振る。



 「肉体は一つだけだ。ここは仮の世界。お前の心の中だ。だから俺達二人が存在していられる。だから、戦うのはお前だ。残念だが、俺はサポートしかできない。ジークは親父より力をつけている。俺の力を使っても、倒せるか際どいところだ」


 心の中にいたのか。だから、グッデやグッデのおじいさんが見えたわけだ。ディスと共に戦えないのは残念だが、それでも勝てる自信が出てきた。念のため、エレムスクの力について聞いてみる。


 「ジークはエレムスクより強いのか?」


 「契約の書にサインされたからな。あれは、先代から代々、莫大な魔力も引き継いでいる。闇色の血の悪魔がサインすると、魔王の王位にふさわしい力も同時に手に入る仕組みさ。


 だから、赤い血の俺には魔王になる資格がないらしい。別になりたいとも思わないが、ジークだけには渡すつもりはなかった。それで、例の書を盗んで自分の魂に封印したんだが、駄目だったな。お前には不幸な思いをさせた」


 ディスのすまなさそうな目を見るのが忍びない。これまで起きたことを全て知っているのだ。共に苦しんでいたのか。



 「必ず勝つよ」

 ディスに誓う。約束だ。もう、誰も傷つけないと。


 「お前一人で戦うんじゃない。俺がいることを忘れるな」


 黒い瞳から光がこぼれる。涙ではなく、優しい光だ。安らかなディスの笑みが闇に溶けていく。黒い風になったディスが、僕の身体の回りを渦巻く。
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