133.魔力封じの呪い

文字数 1,473文字

 前に飛び出してきた。横から剣が叩きつけられる。杖で流すが、結構な手ごたえがある。自慢することだけはある。腕を振り上げ、上から切り込んでくる。


 乱暴に扱われている剣だが、それに耐えるだけの質がある。後ろに飛んで間合いを開ける。


 しかし、ゾンビが後ろから飛びついてきた。それをそのままの勢いを利用して、前に投げる。キースに当てる。つもりだったが、いない。


 頬に触れたわずかな風が居場所を教えた。真上だ。高らかに振り上げている剣が光る。素早く杖を頭上に持ち上げる。火花を散り、弾く。


 低い姿勢を保ち、後ろに飛ぶ。ゾンビの足元にもぐりこんで、蛇の足を払う。地面に倒すのは簡単だ。こいつらのいない空に飛ぶ。


 「フライク」

 スピードはそれほど出ないが、安定した飛行のできる基本呪文。これでゾンビと遊ばなくて済む。キースの接近も防げる。下から見上げているゾンビとキースが小さく見える。


 「俺達も行きますか」


 これで銃に切り替えると思ったが、違った。羽を使って飛んできたのはキースだけではなく、ゾンビもだ。吸い上げられるように浮いてきた。羽ばたいていたキースが羽を休め、空中で静止する。


 「ゾンビも飛べるとはな」

 「まさか。俺が飛ばしてるんだよ」

 「だろうな」


 読み通りだ。だが、倒す敵は変わらない。キースが不審な笑みを浮かべる。まるで考えを見抜いているようだ。


 「俺を倒せばこいつらは飛べないって考えてるんだろ? そうさ。でも、俺を倒す前に、こいつら動きが速くなってるよ。空中なら俺が直接操れるからね」


 それがどうした。その分空中はさっきの場所より広くなった。存分に戦えるはずだ。次にキースが笑ったとき、何かあると分かった。悪魔の笑みは何らかの意味がある。

 「仕掛けられた罠に気づいてないんだね」


 罠だと? 噴水を見下ろす。同じ場所にいくつも罠があるとは考えにくい。連動する罠でない限り。かと言って他に罠が仕掛けられそうな場所はない。


 どこだ。仕掛けられたということは、キース自身が仕掛けたわけではないのか。罠を仕掛けたとき、キースはいなかった。


 つまり、もっと前から仕掛けは作られたことになる。そして今ここにあるもの。前からあって、誰かに仕掛けるタイミングがあったもの。それは今ズボンのポケットに入っている。



 「トランプか」



 手に取ってみると、トランプに温もりを感じた。自分の魔力(イーヴル)が通っている。魔力を注いだ覚えはない。


 「今頃気づいても遅いよ。あんたの魔力をずっと吸い続けてる」


 キースがニヤつくのも無理はない。力が落ちていたことに気づかなかったのだ。トランプを落とす。杖で串刺しにするが、手遅れだろう。


 「無駄だって。もうあんたの体に呪いが移った」


 さっきトランプをつかんだ掌に、トランプの柄と同じハートが浮かぶ。

 「悪趣味な柄だな」


 何の呪いか聞く前に言葉が突いて出た。おそらくこれは魔力を吸い取る呪い。ハート柄は初めて見たが。




 「魔力封じの呪い。あんたなら知ってるんじゃない?」




 やはりそうらしい。戦いが長引けば不利になる。なぜなら、魔力を全て奪われると回復に何ヶ月もかかる。それに、眠気が襲ってきて、死ぬように眠りこけてしまうだろう。


 当然魔法も使えない。大きな技も出せなくなる。解決策は、キースを早く倒すことだ。呪いの解き方は分からないが、後で色々試すとしよう。おそらくこの呪い、バロピエロがつけたか。


 ひょっとするとトランプも故意に選ばせた可能性がある。しかし、もう今となっては遅い。とりあえず今は目の前の敵に専念するしかない。呪いはその後だ。
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