137.血は闇色

文字数 928文字

 「調子に乗るんじゃねぇよ」


 一歩、横に体重移動させただけで、ジークは爪をよけた。伸ばした腕をつかまれ、爪が刺刺さった。ひるんでいる暇はない。


 鋭い爪が振り上げられる。目を狙ってきた。頬をかすった。冷たい血が流れる。汗のように冷たい血に嫌な予感を覚える。


 次の瞬間見事な回し蹴りが飛んできた。


 「がっ!」

 金づちで殴られてもこれほど激しく視界は揺らがないだろう。血は出ていないものの、吐き気がして立っていられない。


 むせ返っていると、黒のブーツが視野に入ってきた。ジークが口元をほころばせ、見下ろしているのが感じられる。よたついている場合ではない。


 「立たせてやろうか?」


 髪をわしづかみにされ、自分の体重に負けた数本が引きちぎられた。痛い上に自力で立たないと、足が浮きそうだ。


 コウモリのディグズリーが飛んでジークの肩に止まった。このペアがそろうと、何をされるか分かったものではない。


 「お前の最期をこいつも見たいらしいな」


 ここで終わりなのか? まともなダメージは与えられなかった。息の絶えかけているグッデには、必ず勝つと伝えるつもりで、爪を突き刺す決断をしたのだ。何てあり様だ。何もできなかったでは済まされない!


 「逃げろ」

 か細い声はグッデのものだ。意識がいつなくなってもおかしくない状態なのに、ずっと見守ってくれていたのか?


 細長いジークの耳がそちらに傾く。こいつを刺激しては駄目だ!


 「しぶとい奴だ。裏切り者は始末しないとな、バレ。心置きなくオレを憎め」


 それだけは! どの道助かる傷ではない。これ以上グッデをどうするつもりだ。つま先立ちで威勢を張っても強がりにしか見えないが、ジークを止めなければ。


 「グッデに何かしてみろ。呪ってやる!」


 期待通り、というジークの笑み。そのあり余る喜びに満ちた顔と言ったら、咲き誇る花畑よりも華やかで、幸福を運ぶ天使よりも美しく、それゆえ身の毛がよだつ。


 「口は達者だな」

 喜びに満ちた顔はとうとう僕を殺す気になったということか。



 「さあて。お前の命はオレの手中にある。さっきは油断してたが、今度は離さないぜ。血は」


 頬を流れていた血をジークの手が撫でた。掌についたのを確認し、僕にも見せつけた。



 「闇色(ダークカラー)だ」
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