151.二人
文字数 1,421文字
アグルが笑顔を取り戻すが、まだ不安そうだ。レイドの意識が戻らないのだから、それもそうだ。
「お礼はいいよ。あいつを倒してからね。二人を頼むよ」
顔を輝かせ、アグルは回復呪文を唱え始めた。頼もしい限りだ。
「ジーク。僕もお前の汚いやり口ぐらいもう分かってる」
床で息絶えたディグズリーをちらと見て、ジークは目を細めた。
「それはお前の意見か? ディスの意見か?」
眉間に一度しわが寄ると鼻の頭までしわがいく。よほどジークはディスを好ましく思っていないようだ。
「僕達二人の意見だ」
そう言ってやるとジークの顔が真っ赤に彩る、と思ったがそうはならなかった。挑発はあまり効果がないらしい。
「なら手っ取り早い。殺したい奴を二人同時に殺せる。お前一人でいいんだからな」
すぐ目の前にジークが現われた。一秒とせず。今はこんなことを考えるだけの余裕がある。これまで一度も捉えられなかったジークの爪が、見える。体をよけたい方へ傾ける。川の流れに身を任せるとように水に溶ける。
ジークの目がギロリと端に寄った。次に来るのは、風より早い蹴りだ。しかし、これも体に触れない。こっちも風になったようだ。ディスの鼓動が聞こえる。僕達は二人の力で移動している。
ジークは積極的に攻めてくる。爪を全開に伸ばして、斬って、斬って、斬りまくる。よほど斬りたいらしい。こっちだって負けていられない。よけて、よけて、潜り込んで、斬った。
ジークは攻めるだけの能なしではない。さっと身を引いてかわす。そうはさせない。大股に踏み込む。腕だけ届けばいい。
腕を黒く液状化させる。ジークの肩に爪が届く。すぐに間合いを取る。ジークも後方へ飛び、やっと攻撃を止めた。
ジークが途方もなく流れ出す黒い血を眺めている。虚ろな目だ。この男は傷を負ったことがないのではないか? という薄気味悪い予感がする。
「なぜ、逆らう? なぜ負けを認めない? なぜオレの思惑通りに絶望しない?」
わけの分からないことをぶつぶつと呟いている。正気を失ったのか? いつもの笑いが戻ってくるが、ヒステリックな高笑いに変わる。
「いいねぇ。オレに抵抗してくれるってのは。その分、お前の死に向かう苦しみが長引くってことだろ?」
狂ったわけではない。元が狂っていた。慎重になりすぎず、戦った方が身のためか。
「そいつの話に取り合うな」
どこかで声がした。空から降ってくるようでもあるし、内側で聞こえたような気もする。ディスの声だ。
「まともに聞いたら頭が腐る」
確かに。相槌は打たなくてもディスは分かってくれている。
「口を挟むな。オレはバレと話してる!」
自分にしか聞こえないと思っていたディスの声は、ジークにも聞こえるようだ。アグルがきょとんとしている。ということはジークの透視能力か。
「いいかバレ! ディスの命令を聞くのも結構。だが、戦うのはお前一人で、傷を負い、床を這いずり回るのもお前一人だ! そこをよく考えろ」
いきり立っているジークが、獲物を狩る獣のように歩き回りはじめた。時折見せていた殺気が、隠れることなく部屋中に解放され、充満していくのが分かる。
時間が経つにつれ、息苦しくなる。全身に電流が流れているかのような空気だ。
ひょっとすると、さっきの回廊で起きたゲリーの死は、殺気によるショック死だったのかもしれない。何かしら笑みをたたえることの多いジークだが、歯茎から漏れるのは怒りの混じった吐息だ。
「お礼はいいよ。あいつを倒してからね。二人を頼むよ」
顔を輝かせ、アグルは回復呪文を唱え始めた。頼もしい限りだ。
「ジーク。僕もお前の汚いやり口ぐらいもう分かってる」
床で息絶えたディグズリーをちらと見て、ジークは目を細めた。
「それはお前の意見か? ディスの意見か?」
眉間に一度しわが寄ると鼻の頭までしわがいく。よほどジークはディスを好ましく思っていないようだ。
「僕達二人の意見だ」
そう言ってやるとジークの顔が真っ赤に彩る、と思ったがそうはならなかった。挑発はあまり効果がないらしい。
「なら手っ取り早い。殺したい奴を二人同時に殺せる。お前一人でいいんだからな」
すぐ目の前にジークが現われた。一秒とせず。今はこんなことを考えるだけの余裕がある。これまで一度も捉えられなかったジークの爪が、見える。体をよけたい方へ傾ける。川の流れに身を任せるとように水に溶ける。
ジークの目がギロリと端に寄った。次に来るのは、風より早い蹴りだ。しかし、これも体に触れない。こっちも風になったようだ。ディスの鼓動が聞こえる。僕達は二人の力で移動している。
ジークは積極的に攻めてくる。爪を全開に伸ばして、斬って、斬って、斬りまくる。よほど斬りたいらしい。こっちだって負けていられない。よけて、よけて、潜り込んで、斬った。
ジークは攻めるだけの能なしではない。さっと身を引いてかわす。そうはさせない。大股に踏み込む。腕だけ届けばいい。
腕を黒く液状化させる。ジークの肩に爪が届く。すぐに間合いを取る。ジークも後方へ飛び、やっと攻撃を止めた。
ジークが途方もなく流れ出す黒い血を眺めている。虚ろな目だ。この男は傷を負ったことがないのではないか? という薄気味悪い予感がする。
「なぜ、逆らう? なぜ負けを認めない? なぜオレの思惑通りに絶望しない?」
わけの分からないことをぶつぶつと呟いている。正気を失ったのか? いつもの笑いが戻ってくるが、ヒステリックな高笑いに変わる。
「いいねぇ。オレに抵抗してくれるってのは。その分、お前の死に向かう苦しみが長引くってことだろ?」
狂ったわけではない。元が狂っていた。慎重になりすぎず、戦った方が身のためか。
「そいつの話に取り合うな」
どこかで声がした。空から降ってくるようでもあるし、内側で聞こえたような気もする。ディスの声だ。
「まともに聞いたら頭が腐る」
確かに。相槌は打たなくてもディスは分かってくれている。
「口を挟むな。オレはバレと話してる!」
自分にしか聞こえないと思っていたディスの声は、ジークにも聞こえるようだ。アグルがきょとんとしている。ということはジークの透視能力か。
「いいかバレ! ディスの命令を聞くのも結構。だが、戦うのはお前一人で、傷を負い、床を這いずり回るのもお前一人だ! そこをよく考えろ」
いきり立っているジークが、獲物を狩る獣のように歩き回りはじめた。時折見せていた殺気が、隠れることなく部屋中に解放され、充満していくのが分かる。
時間が経つにつれ、息苦しくなる。全身に電流が流れているかのような空気だ。
ひょっとすると、さっきの回廊で起きたゲリーの死は、殺気によるショック死だったのかもしれない。何かしら笑みをたたえることの多いジークだが、歯茎から漏れるのは怒りの混じった吐息だ。