115.レイドと互角

文字数 1,236文字

 「面白くなってきたな」



 サーカスでも見ているようにつぶやくジェルダン王。

 「ところでチビ」


 不安そうなアグルの背筋がビクッと伸びる。白い眼球と目が合い、口をぱくぱくさせる。

 「な、何?」

 「どちらが勝つと思う?」


 おどおどとアグルは口ごもりながら答える。


 「お兄ちゃんには勝って欲しい。でも、バレって人、悪い悪魔じゃないみたいな気がする。どっちも負けて欲しくない」


 ジェルダン王は顎をさすって笑い出す。

 「それは無理だろうな。このままだと、どちらかが倒れるまで戦い続けるだろう。はっはっはっは」


 剣が遠ざけられた。

 「来い」


 言われるやいなや爪を立て、飛びかかった。遠ざかったはずの剣がすぐ、防御に回る。弾かれたときには、レイドの顔に喜びに近いものがあった。しかしすぐに真剣そのものになる。もう躊躇(ちゅうちょ)しない。加えて、爪を伸ばしてレイドの首を狙う。刃物がぶつかり合う音。後方に逃げられた。


 「イミニスト!」


 斜めに振られた剣の頂を中心に、青白い火花がいくつも散る。近距離だが、すばやく方向を見極め、斬り裂く。

 「その呪文。一度見てるよ」


 一気に間合いを詰め、振りかぶる。


 「だろうな。二度も当たらないか」


 また剣に邪魔される。お互いに弾き、距離を置く。おそらくレイドも同じことを思っているだろう。一筋縄じゃいかないと。


 この戦いは長引きそうだ。額を汗が伝う。レイドも同じようだ。しばらく睨み合いが続く。先に動いたのはレイドだ。


 「エレンスレイン!」

 緑の炎が飛び出してくるが、この呪文は自分もできる。攻略法も知っている。




 「イークロスト」

 爪で空をかくと、風の刃ができる。炎はこれで刃とともに消滅する。そう思った。レイドが炎の谷間から顔を出した。片腕が血を噴いているが、無謀にも近づいてくる。


 「クライフェシャニン」


 聞いたこともない呪文。周囲を含め身体が光に溶け込んだので目を覆った。剣先が鼻の頭をかすめた。片目だけでそれを見て取れたのが奇跡だ。


 今のは、目くらましの一つか? 続けざまに剣が腕をかすめたので、無謀だが身を乗り出し、剣が振られる前に蹴りを決める。レイドが体勢を崩す。今だ! 爪で畳みかける。


 「俺は後ろだ」


 声の方向は間違いなく背後からだった。じゃあ前にいるのは? 光となって消えた。さっきの呪文は目くらましじゃない!


 振り返ると剣が降下した。爪を盾にするが、とっさのフォームはもろく、弾かれた。刃が唸る。手が駄目ならと、足を振り上げた。それが吉となってレイドの腕に当たり、剣の軌道は外れる。


 だが、無理な姿勢を取ったので転んだ。レイドも反動でバランスを崩して倒れる。


 「やるな」

 「そっちこそ」


 レイドと互角に戦っているということが誇らしい。旅に出た頃は助けてもらってばかりだったのに。だが、互角というだけで満足はできない。目的はジークだ。


 ジークはレイドよりも強いだろう。足止めを食らうわけにはいかない。もうどんな攻撃が来ようが一歩も譲らないつもりだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み