52.死の呪い
文字数 1,379文字
その言葉で熱が頂点に達した。
「許さない。全部おまえらのせいだ。グッデも、全部!」
もちろんグッデのことは自分の責任だ。でも何か言わずにはいられなかった。この理不尽に対して怒号の声を発せずにはいられなかった。
この男を殺したっていいと思った。そう思うより早く、体が動いていた。この首を引っつかんで、どうにかしてやろうとしたが、もう少しという距離で、バロピエロが横にすっと、動いたのだ。地面を滑るようによけられた。
「そういえば、依頼を忘れるところでした」冷酷な声がした。けれども微笑みは消さないままで。バロピエロがいなくなったせいで、前に転ぶというとき、わきから白い手袋が視界に入った。
何ごともなく、そのまま転んだ。膝をすりむいて、よくもよけたなと、睨むと、急に胸が痛くなった。針で刺されたようだ。痛くて、声がかすれる。
「こ、今度は、何をしたんだ」
バロピエロはあの気持ち悪い笑みをした。
「死の呪いです」
痛みの元をたどると、ちょうど首のすぐ下辺りの胸の位置に、黒い線があった。ひっかき傷みたいだ。上で三本に枝分かれし、それぞれ長さが違う。黒々とした光を放っている。
「悪魔にぴったりの呪いですよ。『寿命の符』という呪いです。悪魔は長生きですから、その寿命を一ヶ月にしてしまうという、すばらしいものです」
「一ヶ月?」
胸が痛んで仕方がなかったが、そうも言ってられない。
「本当にそんなことが?」
「できますとも」
こっちの殺気に気づいてからどこか楽しそうなバロピエロ。
「何を怒っているんですか? 当然でしょう? 君が警戒もしないからそうなるんですよ。グッデ君を殺したことも私のせいにして、困った人ですね」
再び体に冷気が走った。今までの灼熱が、極寒に変わる。呪いとは別の、胸が締めつけられる痛みに、何も言えなくなる。
「彼は、グッデ君はもう死んでいますよ。まさか生きていると、思っていたんですか?」
バロピエロの白い歯がそう伝えた。そんなことは頭では分かっていて言葉が見つからない。だけどどこか頭の隅で死んだとまでは認めるのは怖かった。いっそのこと何も分からないまま、あやふやなままにしていてほしい。
「あの血の量ですよ? 助けに来た人がいたようですが、それでも間に合いませんでしたね」
やはりあの現場を見ていたのか? そう言いかけても、何も言葉が出ない。
「残念ですねバレ君。私ではなく君がその手で殺してしまったんです」
「やめろ」
耳をふさぎたい。目に浮かぶ光景を消したい。
「全て事実ですよ」
信じたくない。グッデはつい最近まで笑って、話して、動いていたはずだ。確かに彼と共に旅してきたのだ。だけどこの世にはもう、いないのか? 僕がやったのか? 耐えられない。
「そんなこと教えるために来たのか! 悪魔にしたり、呪ったり、魔王になりたかったら勝手になればいい」
自暴自棄になって叫ぶと、バロピエロが優しく微笑んだ。さっきからずっと笑っていたが、妙に口角がゆっくりと広がった。
「そう思っているんでしたら、話は早いですね。ここに行ってもらいましょうか?」と、懐からコンパスを取り出した。
「ここから北にまっすぐのところにある塔で、彼がお待ちしています」
「誰が?」コンパスをうやうやしく渡されたので、後退った。
「ジークが、君を呼んでいます」
「許さない。全部おまえらのせいだ。グッデも、全部!」
もちろんグッデのことは自分の責任だ。でも何か言わずにはいられなかった。この理不尽に対して怒号の声を発せずにはいられなかった。
この男を殺したっていいと思った。そう思うより早く、体が動いていた。この首を引っつかんで、どうにかしてやろうとしたが、もう少しという距離で、バロピエロが横にすっと、動いたのだ。地面を滑るようによけられた。
「そういえば、依頼を忘れるところでした」冷酷な声がした。けれども微笑みは消さないままで。バロピエロがいなくなったせいで、前に転ぶというとき、わきから白い手袋が視界に入った。
何ごともなく、そのまま転んだ。膝をすりむいて、よくもよけたなと、睨むと、急に胸が痛くなった。針で刺されたようだ。痛くて、声がかすれる。
「こ、今度は、何をしたんだ」
バロピエロはあの気持ち悪い笑みをした。
「死の呪いです」
痛みの元をたどると、ちょうど首のすぐ下辺りの胸の位置に、黒い線があった。ひっかき傷みたいだ。上で三本に枝分かれし、それぞれ長さが違う。黒々とした光を放っている。
「悪魔にぴったりの呪いですよ。『寿命の符』という呪いです。悪魔は長生きですから、その寿命を一ヶ月にしてしまうという、すばらしいものです」
「一ヶ月?」
胸が痛んで仕方がなかったが、そうも言ってられない。
「本当にそんなことが?」
「できますとも」
こっちの殺気に気づいてからどこか楽しそうなバロピエロ。
「何を怒っているんですか? 当然でしょう? 君が警戒もしないからそうなるんですよ。グッデ君を殺したことも私のせいにして、困った人ですね」
再び体に冷気が走った。今までの灼熱が、極寒に変わる。呪いとは別の、胸が締めつけられる痛みに、何も言えなくなる。
「彼は、グッデ君はもう死んでいますよ。まさか生きていると、思っていたんですか?」
バロピエロの白い歯がそう伝えた。そんなことは頭では分かっていて言葉が見つからない。だけどどこか頭の隅で死んだとまでは認めるのは怖かった。いっそのこと何も分からないまま、あやふやなままにしていてほしい。
「あの血の量ですよ? 助けに来た人がいたようですが、それでも間に合いませんでしたね」
やはりあの現場を見ていたのか? そう言いかけても、何も言葉が出ない。
「残念ですねバレ君。私ではなく君がその手で殺してしまったんです」
「やめろ」
耳をふさぎたい。目に浮かぶ光景を消したい。
「全て事実ですよ」
信じたくない。グッデはつい最近まで笑って、話して、動いていたはずだ。確かに彼と共に旅してきたのだ。だけどこの世にはもう、いないのか? 僕がやったのか? 耐えられない。
「そんなこと教えるために来たのか! 悪魔にしたり、呪ったり、魔王になりたかったら勝手になればいい」
自暴自棄になって叫ぶと、バロピエロが優しく微笑んだ。さっきからずっと笑っていたが、妙に口角がゆっくりと広がった。
「そう思っているんでしたら、話は早いですね。ここに行ってもらいましょうか?」と、懐からコンパスを取り出した。
「ここから北にまっすぐのところにある塔で、彼がお待ちしています」
「誰が?」コンパスをうやうやしく渡されたので、後退った。
「ジークが、君を呼んでいます」