117.発覚
文字数 1,338文字
「君を殺したら、あの子が悲しむだろ?」
今にも泣き出しそうなアグルを見て、レイドは言葉を詰まらせる。このまま何もなかったことにしてこの場を去ろう。この戦いに意味はあった。
「いいのか? 俺はまたお前を殺しに行くかもしれないぞ」
そんな気はないように聞こえる。でも、一応知ってもらおう。自分の敵はレイドではないのだと。
「これ何だか知ってる?」
ブラウスの襟元を少し下に下げると、すぐに黒い爪跡のような呪いが顔を出す。レイドもアグルも知らないらしい。それほど特殊な呪いということか。
「呪いの符。死の呪い。もう三日も生きられないんだ」
レイドは十字聖剣カオスに視線を落とす。不思議だが、レイドの落胆の中に微かだが、笑みが見えた。
「俺が追っかけた頃には死んでる、か。なあ、一つ聞いていいか? 何でジークの城に?」
今までと違い穏やかな声だ。澄んだ黒い瞳は僕を認めてくれている。
「僕を悪魔にしたジークを殺しに。僕が殺してしまったグッデのために」
レイドはあまり驚かなかった。何が起きたか、想像がつくのだろう。問いかけようとした口が、ゆっくりとしぼんだ。
沈黙を破って、拍手が聞こえる。三人そろって振り向くと、ジェルダン王が血の椅子から立ち上がり、長い演劇を見終えたようなすがすがしい顔をしている。
「いやいや、実によかったよ。諸君。これがよい決闘というものだ。レイドとやら、負けたのに許してもらえてよかったじゃないか」
芝居がかった話し方にレイドがジェルダン王に剣を向ける。
「忘れていた。お前は誰だ」
「あいつは火水 、暁のジェルダン王だ。人間だったけど、血の池地獄の番人で、四大政師 になったんだ」
レイドが口を開けるほど驚いた。しかし同時に納得している。
「そうか。こんな化け物でも四大政師になれるんだな。とても母さんを手こずらせているとは思えないが」
普段なら自分のことは絶対に自ら話さないレイドがどうしたのだろう。
「お前の母親など知らんぞ。それよりお前とチビ。負けたんだろう? それだけではつまらん。ここで罰ゲームをするのはどうだ? 血を抜き取って、私の血の池の水量を増やしてやろう」
「何でそうなるの!」
絶望的な声を上げるアグル。
ジェルダン王なら本当にやりかねない。血の椅子が固型を崩し、大きく渦となって巻き上がる。ジェルダン王自らも液体化する。
剣で迎え討つつもりだ。いくらレイドでも勝てるのか? 経験からして、あれはたぶん津波になる!
「レイド無茶だよ!」
僕は忠告したが、血が何十メートルも高く巻き上がり風を運んでくる。もう逃げられない。
本物の津波が突如、現われた。血を押し返す。これは、まるで旅に出た日の思い出そっくりだ。暗い空から水の渦をまとって、女性が降り立つ。黄金色の短く整えられた髪が印象的だ。灰色のスーツがこの場にふさわしくないが、似合っている。
「久々にあなたの戦いを見てみようと思ったら、とても見れたものじゃないわね」
はじめて出会ったとき同様、救ってくれたのは水、月夜の要姫 だ!
「母さん!」
確かにレイドがそう言った。
「ええ! 母さんって君の?」
要姫がレイドのお母さんだというのか? 言われてみればどことなく似ている感じもするが。
今にも泣き出しそうなアグルを見て、レイドは言葉を詰まらせる。このまま何もなかったことにしてこの場を去ろう。この戦いに意味はあった。
「いいのか? 俺はまたお前を殺しに行くかもしれないぞ」
そんな気はないように聞こえる。でも、一応知ってもらおう。自分の敵はレイドではないのだと。
「これ何だか知ってる?」
ブラウスの襟元を少し下に下げると、すぐに黒い爪跡のような呪いが顔を出す。レイドもアグルも知らないらしい。それほど特殊な呪いということか。
「呪いの符。死の呪い。もう三日も生きられないんだ」
レイドは十字聖剣カオスに視線を落とす。不思議だが、レイドの落胆の中に微かだが、笑みが見えた。
「俺が追っかけた頃には死んでる、か。なあ、一つ聞いていいか? 何でジークの城に?」
今までと違い穏やかな声だ。澄んだ黒い瞳は僕を認めてくれている。
「僕を悪魔にしたジークを殺しに。僕が殺してしまったグッデのために」
レイドはあまり驚かなかった。何が起きたか、想像がつくのだろう。問いかけようとした口が、ゆっくりとしぼんだ。
沈黙を破って、拍手が聞こえる。三人そろって振り向くと、ジェルダン王が血の椅子から立ち上がり、長い演劇を見終えたようなすがすがしい顔をしている。
「いやいや、実によかったよ。諸君。これがよい決闘というものだ。レイドとやら、負けたのに許してもらえてよかったじゃないか」
芝居がかった話し方にレイドがジェルダン王に剣を向ける。
「忘れていた。お前は誰だ」
「あいつは
レイドが口を開けるほど驚いた。しかし同時に納得している。
「そうか。こんな化け物でも四大政師になれるんだな。とても母さんを手こずらせているとは思えないが」
普段なら自分のことは絶対に自ら話さないレイドがどうしたのだろう。
「お前の母親など知らんぞ。それよりお前とチビ。負けたんだろう? それだけではつまらん。ここで罰ゲームをするのはどうだ? 血を抜き取って、私の血の池の水量を増やしてやろう」
「何でそうなるの!」
絶望的な声を上げるアグル。
ジェルダン王なら本当にやりかねない。血の椅子が固型を崩し、大きく渦となって巻き上がる。ジェルダン王自らも液体化する。
剣で迎え討つつもりだ。いくらレイドでも勝てるのか? 経験からして、あれはたぶん津波になる!
「レイド無茶だよ!」
僕は忠告したが、血が何十メートルも高く巻き上がり風を運んでくる。もう逃げられない。
本物の津波が突如、現われた。血を押し返す。これは、まるで旅に出た日の思い出そっくりだ。暗い空から水の渦をまとって、女性が降り立つ。黄金色の短く整えられた髪が印象的だ。灰色のスーツがこの場にふさわしくないが、似合っている。
「久々にあなたの戦いを見てみようと思ったら、とても見れたものじゃないわね」
はじめて出会ったとき同様、救ってくれたのは水、月夜の
「母さん!」
確かにレイドがそう言った。
「ええ! 母さんって君の?」
要姫がレイドのお母さんだというのか? 言われてみればどことなく似ている感じもするが。