79.DEO
文字数 1,581文字
アグルが目を覚ました。ぼーっとした顔をして何をしていたのか覚えてなさそうだ。
「よう」
やっとお目覚めか。焚き火をしてじっとしていたせいでこっちが眠たい。
「感謝しろよ」
やっと状況を思い出したアグルは、自分にかけられた上着をしげしげと見つめている。
「助けてくれたんだ」
俺はむず痒くなったので、そっぽを向いた。
「けが大丈夫?」
「まぁな」
「怒ってる?」
「怒ってない」
お兄ちゃんと呼ばれるのが恥ずかしい。そもそも兄弟などいないのだ。ついさっき出会ったばかりの悪魔の子に言われても困る。怒ってなんかいない。俺はただ、こいつを助けたことが正しいことなのか迷っただけだ。
アグルが俺の鼻に目がつくぐらいの距離で顔を覗かせた。
「脅かすな!」
「本当に怒ってない?」
「何回も言わせるな」
アグルが俺に飛びついてきた。何事だ?
「大好き」
「痛いって」
こいつの行動は全く理解できない。しかも、自分があまりにも無防備だったことが不覚だ。
「悪魔魔術、痛いの痛いの飛んでいけー」
人差し指が額に当たった。
「ぬお!」
煙が襲ってくる。魔力を感じ取り、思わず十字架に手を伸ばす。アグルに押しつけ、掴みかかった。
「今何をした!」
アグルは戸惑うばかりで、あわあわと泣きそうな声を出す。
「おまじないだよー。痛いの飛んでいかなかったの?」
そう言われてみれば節々が楽になったようだ。さっきの戦いでの疲れもどこかへ行ってしまった。
アグルは不安な顔で見ている。今やっと気づいた。こいつを助けたのは間違いではなかったと。なのに、自分は悪魔だからといって跳ね除けた。
「悪かった。許してくれ」
アグルは屈託ない笑顔を見せる。
「いいよ」
頬が緩むのを感じた。足取りは軽く、結局二人で行くことにした。魔界を歩くにあたって、アグルはそれなりの土地勘がある。それと、もう一つやることができた。アグルを殺そうとした、DEOという組織を潰すこと。もちろんバレを探しながらだ。しかし、アグルの赤い血のこともあって、自分に自信が持てなくなった。
もしかするとバレは、悪い悪魔ではないのかもしれないと。どちらにしろ、アグルと上手くつき合っていけるかが問題だ。いずれバレのことは、次に会ったときに分かるだろう。
荒野の岩場で野宿をした俺達は、小動物を捕まえ朝食にした。アグルはたった今殺したばかりの動物を食べるのを嫌がる。
「お前本当に悪魔か? 腹減るぞ」
「いいもん。食べなくても二、三週間平気だから」
「街のやつらは食べてたぞ」
一度は街に潜入したが、悪魔のあまりの多さに、引き返して作戦を練ることにしたのだ。
「食べたくなったら食べるんだよ」
いまいち飲み込めなかった。
「味を楽しんでるのか」
今まで悪魔のことをよく考えたことがなかった。敵を味方につけると、今までよく知らなかったことが分かる。食事もそこそこにし、アグルにDEOの拠点を知らないかと聞いた。
「学校のこと?」
「そんなものがあるのか?」
「本当は昨日パパと行くところだったの」
「そこに行くぞ」
きっとDEOと関係している。悪魔の学校なんてとんでもない場所に決まっている。アグルに案内をさせると、街とは反対方向の森の近にその建物はあった。横に長く造られた学校は灰色で、背景の深い森とは全くバランスが悪い。門は無用心に開いている。
「入り口はここだけみたいだな。お前はここで待っとけ」
アグルは不満そうにごねた。
「危ないから言ってる」
「お兄ちゃんは危なくないの?」
言い返せなくなる。学校とはいえ、悪魔達がどれほどの人数でいるか分からないのだ。
「あーやっぱり。だよね、昨日のピンチを救ったのは僕だもんね」
「バカ言え」
アグルはにこにこ笑っている。これまで自分のペースを乱す悪魔はいただろうかと、悔しく思った。
「よう」
やっとお目覚めか。焚き火をしてじっとしていたせいでこっちが眠たい。
「感謝しろよ」
やっと状況を思い出したアグルは、自分にかけられた上着をしげしげと見つめている。
「助けてくれたんだ」
俺はむず痒くなったので、そっぽを向いた。
「けが大丈夫?」
「まぁな」
「怒ってる?」
「怒ってない」
お兄ちゃんと呼ばれるのが恥ずかしい。そもそも兄弟などいないのだ。ついさっき出会ったばかりの悪魔の子に言われても困る。怒ってなんかいない。俺はただ、こいつを助けたことが正しいことなのか迷っただけだ。
アグルが俺の鼻に目がつくぐらいの距離で顔を覗かせた。
「脅かすな!」
「本当に怒ってない?」
「何回も言わせるな」
アグルが俺に飛びついてきた。何事だ?
「大好き」
「痛いって」
こいつの行動は全く理解できない。しかも、自分があまりにも無防備だったことが不覚だ。
「悪魔魔術、痛いの痛いの飛んでいけー」
人差し指が額に当たった。
「ぬお!」
煙が襲ってくる。魔力を感じ取り、思わず十字架に手を伸ばす。アグルに押しつけ、掴みかかった。
「今何をした!」
アグルは戸惑うばかりで、あわあわと泣きそうな声を出す。
「おまじないだよー。痛いの飛んでいかなかったの?」
そう言われてみれば節々が楽になったようだ。さっきの戦いでの疲れもどこかへ行ってしまった。
アグルは不安な顔で見ている。今やっと気づいた。こいつを助けたのは間違いではなかったと。なのに、自分は悪魔だからといって跳ね除けた。
「悪かった。許してくれ」
アグルは屈託ない笑顔を見せる。
「いいよ」
頬が緩むのを感じた。足取りは軽く、結局二人で行くことにした。魔界を歩くにあたって、アグルはそれなりの土地勘がある。それと、もう一つやることができた。アグルを殺そうとした、DEOという組織を潰すこと。もちろんバレを探しながらだ。しかし、アグルの赤い血のこともあって、自分に自信が持てなくなった。
もしかするとバレは、悪い悪魔ではないのかもしれないと。どちらにしろ、アグルと上手くつき合っていけるかが問題だ。いずれバレのことは、次に会ったときに分かるだろう。
荒野の岩場で野宿をした俺達は、小動物を捕まえ朝食にした。アグルはたった今殺したばかりの動物を食べるのを嫌がる。
「お前本当に悪魔か? 腹減るぞ」
「いいもん。食べなくても二、三週間平気だから」
「街のやつらは食べてたぞ」
一度は街に潜入したが、悪魔のあまりの多さに、引き返して作戦を練ることにしたのだ。
「食べたくなったら食べるんだよ」
いまいち飲み込めなかった。
「味を楽しんでるのか」
今まで悪魔のことをよく考えたことがなかった。敵を味方につけると、今までよく知らなかったことが分かる。食事もそこそこにし、アグルにDEOの拠点を知らないかと聞いた。
「学校のこと?」
「そんなものがあるのか?」
「本当は昨日パパと行くところだったの」
「そこに行くぞ」
きっとDEOと関係している。悪魔の学校なんてとんでもない場所に決まっている。アグルに案内をさせると、街とは反対方向の森の近にその建物はあった。横に長く造られた学校は灰色で、背景の深い森とは全くバランスが悪い。門は無用心に開いている。
「入り口はここだけみたいだな。お前はここで待っとけ」
アグルは不満そうにごねた。
「危ないから言ってる」
「お兄ちゃんは危なくないの?」
言い返せなくなる。学校とはいえ、悪魔達がどれほどの人数でいるか分からないのだ。
「あーやっぱり。だよね、昨日のピンチを救ったのは僕だもんね」
「バカ言え」
アグルはにこにこ笑っている。これまで自分のペースを乱す悪魔はいただろうかと、悔しく思った。