78.悪魔の爪
文字数 1,485文字
悪魔の爪。大切なグッデの命を奪った。でも、これならきっとジークを倒せる。僕を悪魔にしたことを後悔させてやる!
魔物の手の中で爪を伸びる限りに伸ばし、皮も肉も引き裂いた。魔物は強烈な叫び声をあげ、手から振り払われる。
何事かとゾルスという悪魔の男が驚く。これでまた、僕は悪魔に近づく。
「調子に乗るな!」
声を張り上げた男は、魔物に爪を振り下ろした。仲間割れか? そうではない。死骸と化した物体が寄り合って元の形に生き返った。悪魔魔術か。
「悪夢 からお前は逃げ切れるか?」
魔物の突進。さっきより数段、動きが速い。かろうじてかわすと、男の爪が迫っていた。爪で受け止めよう。そのとたん、男の爪が伸びた。慌てて体を反らす。髪を数本切られた。
「へっへっへ。捕まえるだけじゃつまらねえな!」
男の爪から、僕の髪がはらはらと落ちる。あの爪は厄介だ。どこまで伸びるのか分からない。自分も一メートルぐらいなら伸ばせるが、あの男だけの能力か。
魔物の追撃が始まる。拳の嵐だ。昨日までに教わった通りに、一つずつ見極めていく。男が足元をすくおうと、爪を鞭のように伸ばしてくる。
焦る自分がいる。いつも通りにできない。爪の鞭を連続で飛び越える。足首をわずかに斬られた。男は爪を見つめて微笑む。
「血が赤いのか。ってことは、悪魔のくせに心は人間のでき損ないかよ」
オルザドークの言葉を思い出すようにした。呪文は素人だと媒体を使う方がやりやすいとか言っていた。棒とか、つまり杖。
男の怒号の蹴りを腕で受けた。
「精一杯か? 後ろがお留守だぜ」
身をひるがえすと、魔物の頭突きが見えた。走って横に飛ぶ。棒など探している暇などない。
「ジークの仲間に捕まってたまるか!」
爪を媒介に、弧を描いた。
「エレンスレイン」
緑の炎が爪にみなぎり、舞う。頭突きで顔を埋めた魔物の体を焼くのは簡単だ。魔物は体をよじり、天まで響く叫びをあげる。
だが、火の威力が足りなかったのか、魔物が起き上がる。焼けた痕など残っていない。男が高らかに笑う。戸惑う者を滑稽に見るように。
「俺を倒すか。跡形も残らねえようにしないと死なないぜ」
魔物ではなく男を倒せということか。
「イークロスト!」
爪であおった風が刃となって男を襲う。
「俺を狙って来るだろ? そうはいかねえ。悪魔魔術、光壁 」
守りの壁が阻んだ。おまけに眩しくて目がくらんだ。そこへ魔物がのしかかってきた!
「じゃあ全員狙えばいいってことだろ?」
こんなところで負けられないのだ。
「インスファウス!」
爪の一本一本から赤い火柱を生む。魔物も悪魔も焦がしてやれ! 魔物、男、それぞれが姿、形、声までかき消えていく。最期に男が喚きながら何か言った。
「お前、血の色が、黒く」
跡形も残らない。男の声は焼ける音と、燃え盛る炎で聞き取れなかった。
「もう消えていいよ」
炎を消すのは慣れている。手でこまねくと、火の粉が弾けて、それで終わりだ。悪魔達はきれいに灰になっている。
後ろから大丈夫か? とチャスの姿が見えた。オルザドークとリデルが後に続く。慌てて爪を元の長さに戻す。無意識に戦いやすい長さに伸ばしていたようだ。
「よかった無事だったんだ」
「こっちが心配してたんだ。中にいたスキンヘッドは魔術で作った偽者だったんだ。手こずらせてくれたけどな」
何はともあれ、どっと疲れがでてきた。さっきまで気にならなかった足が痛む。
「無茶はすんな。ここも危険になったな。俺が住んでる小屋を貸してやるから、そこへ行くぞ」
この街は本当に危険だ。魔界に、人間の居場所はない。
魔物の手の中で爪を伸びる限りに伸ばし、皮も肉も引き裂いた。魔物は強烈な叫び声をあげ、手から振り払われる。
何事かとゾルスという悪魔の男が驚く。これでまた、僕は悪魔に近づく。
「調子に乗るな!」
声を張り上げた男は、魔物に爪を振り下ろした。仲間割れか? そうではない。死骸と化した物体が寄り合って元の形に生き返った。悪魔魔術か。
「
魔物の突進。さっきより数段、動きが速い。かろうじてかわすと、男の爪が迫っていた。爪で受け止めよう。そのとたん、男の爪が伸びた。慌てて体を反らす。髪を数本切られた。
「へっへっへ。捕まえるだけじゃつまらねえな!」
男の爪から、僕の髪がはらはらと落ちる。あの爪は厄介だ。どこまで伸びるのか分からない。自分も一メートルぐらいなら伸ばせるが、あの男だけの能力か。
魔物の追撃が始まる。拳の嵐だ。昨日までに教わった通りに、一つずつ見極めていく。男が足元をすくおうと、爪を鞭のように伸ばしてくる。
焦る自分がいる。いつも通りにできない。爪の鞭を連続で飛び越える。足首をわずかに斬られた。男は爪を見つめて微笑む。
「血が赤いのか。ってことは、悪魔のくせに心は人間のでき損ないかよ」
オルザドークの言葉を思い出すようにした。呪文は素人だと媒体を使う方がやりやすいとか言っていた。棒とか、つまり杖。
男の怒号の蹴りを腕で受けた。
「精一杯か? 後ろがお留守だぜ」
身をひるがえすと、魔物の頭突きが見えた。走って横に飛ぶ。棒など探している暇などない。
「ジークの仲間に捕まってたまるか!」
爪を媒介に、弧を描いた。
「エレンスレイン」
緑の炎が爪にみなぎり、舞う。頭突きで顔を埋めた魔物の体を焼くのは簡単だ。魔物は体をよじり、天まで響く叫びをあげる。
だが、火の威力が足りなかったのか、魔物が起き上がる。焼けた痕など残っていない。男が高らかに笑う。戸惑う者を滑稽に見るように。
「俺を倒すか。跡形も残らねえようにしないと死なないぜ」
魔物ではなく男を倒せということか。
「イークロスト!」
爪であおった風が刃となって男を襲う。
「俺を狙って来るだろ? そうはいかねえ。悪魔魔術、
守りの壁が阻んだ。おまけに眩しくて目がくらんだ。そこへ魔物がのしかかってきた!
「じゃあ全員狙えばいいってことだろ?」
こんなところで負けられないのだ。
「インスファウス!」
爪の一本一本から赤い火柱を生む。魔物も悪魔も焦がしてやれ! 魔物、男、それぞれが姿、形、声までかき消えていく。最期に男が喚きながら何か言った。
「お前、血の色が、黒く」
跡形も残らない。男の声は焼ける音と、燃え盛る炎で聞き取れなかった。
「もう消えていいよ」
炎を消すのは慣れている。手でこまねくと、火の粉が弾けて、それで終わりだ。悪魔達はきれいに灰になっている。
後ろから大丈夫か? とチャスの姿が見えた。オルザドークとリデルが後に続く。慌てて爪を元の長さに戻す。無意識に戦いやすい長さに伸ばしていたようだ。
「よかった無事だったんだ」
「こっちが心配してたんだ。中にいたスキンヘッドは魔術で作った偽者だったんだ。手こずらせてくれたけどな」
何はともあれ、どっと疲れがでてきた。さっきまで気にならなかった足が痛む。
「無茶はすんな。ここも危険になったな。俺が住んでる小屋を貸してやるから、そこへ行くぞ」
この街は本当に危険だ。魔界に、人間の居場所はない。