77.余興

文字数 1,199文字

 コウモリは羽ばたき、ローゼン・バロンの建物で一番高くそびえ立つ城へ。真っ黒な城は、岩とレンガとコンクリートを所々混ぜ合わせた造りだ。


 いくつか開けられたままの窓から中に入るコウモリ。廊下はロウソクの明かりがわずかしかない。さらに進むと、幾つも扉が現われる。その一つから悪魔が現われた。黄緑色の髪の男と黒い髪の女だ。男はコウモリを見つけると、腕に逆さまに止まらせた。


 「ゾルスはもうコステットを捕まえたのか。案内を頼む」

 男が微笑むと、女は男に寄り添う。


 「やっぱり魔王はあんたがなるべきよ」


 コウモリは男の話を理解して、窓の外へ(いざな)う。

 「どこ行くんだロミオ?」


 後ろから男が呼び止める。黄緑色の髪の悪魔ロミオが振り向くと、レンガの壁にもたれ、腕組みをして立っている少年がいた。白い髪が目立つ。

 「ジーク。ほっといてくれる?」

 ジークは舌で口の端をペロッと嘗めた。獣のような瞳が、ロミオに焦点を合わすとニヤリと歪む。


 「お前。オレを裏切る気だろ?」

 ロミオの顔が凍る。


 「何言ってるのよ?」

 女がかばうと、ジークの目が鋭く見開かれる。

 「とぼけるな。全部ばれてんだぜ。オレに黙ってコステットを殺して魔王になるつもりなんだろ?」


 ロミオは冷静に弁解する。

 「ゲームにするのはいいけど、誰にでも魔王の権利はあるはずだよ。でも気に障ったならやめるよ」


 「お前はいつも遠回りに話すな。いい加減疲れたぜ」

 ジークの笑みが尋常でないほど歪む。ロミオが身構えた。血の散乱。ロミオは目を見張る。さっきまで隣にいた女が胸から血を噴出して叫んでいる。


 「メアリ! ジーク何てことを!」

 爪についた血糊を舐めて、ジークは嘲笑う。

 「この女。邪魔なんだよ。オレとお前の話に口出しして」

 ロミオは苦しむ女の肩を支えてやる。ジークが自分ではなく、メアリに手を出すとまで思わなかった。


 「彼女がいないとバンドはできない」


 苦肉の策だが、バンドの話を持ち出した。ギターなしでライブはできないだろう。

 「できるさ。ギターはオレ一人で十分なんだよ!」


 苦しげに見上げる女にジークは最期の制裁を下した。

 「メアリ――!」


 悲鳴を上げることなく女は死んだ。血を、肉を、(わた)を飛び散らせて。

 「やっぱり殺したの?」

 赤紫髪の短髪の女がそっけなく声をかけた。

 「ベザン問題あるのか?」


 ロミオは失神でもしそうだ。ベザンはあえて相手にはせず、報告を済ませることにする。

 「別に。コステットが魔界に来てるわ」

 「ああ。知ってる」


 ベザンは驚いたが、顔に出さないように、タバコを吸い始めた。

 「今日のあんた。いつもより楽しそうじゃない」


 「当たり前だ。恐怖に怯える、あいつに会えるんだからな」


 うつむいたロミオは死体を抱き、その場を去って行く。

 「罠でも仕掛けた?」


 ロミオの背中をジークは笑みで見送る。


 「ライブを盛り上げてやるよ。その前の余興だ」
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